8月26日名古屋弁護士会館4階会議室において、特定非営利活動法人(NPO法人)「ロースクール奨学金ちゅうぶ」の設立総会が開催されました。
1.設立趣意
このNPO法人は、名古屋弁護士会の後援のもと、「弁護士過疎地域その他弁護士が比較的少数にしか所在しない地域の住民に法的サービスを提供したいとの志をもちながら法科大学院の学資の支弁が困難な者に対して、奨学金の支給その他の援助を行うことによって弁護士過疎地域及び弁護士偏在を是正解消し、もって地域社会住民の人権擁護と社会正義の実現に資することを目的とする」ものです。
この取り組みは全国に先駆けて名古屋で始まったものであり、他の弁護士会や日弁連でも非常に注目されています。
2.設立の経過
ロースクールの設置認可申請がいよいよ出揃う時期になりましたが、学費は非常に高いという問題が残り、他方、地域適正配置の理想は実現しない可能性が高くなってきました。こうした中で、弁護士過疎地や支部地域に赴任する志のある学生に奨学金を支給する企画が、当委員会の制度部会(森山文昭部会長)で検討が進められ、当委員会全体で積極的に設立手続をバックアップしてきました。
3.なぜ、NPOか?
委員会での議論の中で、このような活動は弁護士会自身が積極的に取り組むべき事柄であってNPOが取り組むのは筋違いではないか、という意見もありました。しかし、@広く市民や企業、行政などに寄付を呼びかけてゆく為には、弁護士会ではなく「幅広い者に参加の機会を保障する」というNPO法人が適すること、ANPOの場合、国税庁長官の認定を受けて、「認定NPO」となることができる可能性があり、この認定を受けると、寄付金控除が利用できること(個人は寄付金額から1万円を引いた金額が所得控除。法人も一定の割合で控除。相続財産を寄付した場合、相続税の対象とならない)等からNPO法人を主体とする方式を選択しました。
4.奨学金の仕組み
このNPOは、奨学生派遣対象地域等に赴任する志ある学生に対して学費全額を条件付で贈与(負担付贈与)します。例えば、学費が200万円のロースクールであれば、3年コース(標準コース)の場合、600万円(=200万円×3)を支給します。奨学金の支給対象は、中部地方に設立予定の8つのロースクール(愛知、愛知学院、金沢、中京、名古屋、南山、北陸、名城の各大学)の合格者で上記のような志のある者です。
この贈与は、弁護士登録後、弁護士過疎地・愛知県内の支部に3年弁護士登録すること等を条件とします。ただし、赴任前に、過疎地への赴任に先立って日弁連弁護士過疎対策「供給型協力事務所」に勤務して、弁護士としての実力をつけてから過疎地へ赴任できるコースもあります。
ロースクールの設立が来年度に迫っているにもかかわらず、授業料の詳細はまだ固まっていません。しかも、寄付金がどれだけ集まるかこのような中で奨学金の詳細を現時点で詰めきることは困難です。この点については、今後も議論を続けてゆく必要があります。
5.寄付金の募集方法
一番の難問が、この寄付金の募集方法です。このNPOは、寄付をしてくれる会員を「賛助会員」と呼び、月額1,000円の自動引き落としを5年続けていただく方式を採ることにしました。A枠(日弁連のゼロ・ワン地域赴任希望者)B枠(中弁連のゼロ・ワン地域赴任希望者)C枠(名古屋弁護士会の各支部赴任希望者)の3枠を設け、応募者が自由に選択できるような制度にしました。例えば、名古屋弁護士会の会員はA・B・C枠1口ずつ、名古屋以外の中弁連所属の弁護士は、A枠1口、B枠2口、といった具合です。また、弁護士だけでなく、広く一般・行政、企業等にも寄付を求めていくことを予定しています。
一般の寄付など集まるのか、という疑問もあります。しかし、今回のNPO設立に関するマスコミの関心は非常に高いものがあります。6月22日付の朝日新聞朝刊の「名古屋弁護士会 法科大学院の学費免除『寄付で奨学金』計画」という1面トップ記事は、全国に配信されました。会自体が設立主体になるような見出しが付いた点は若干ミスリードではありましたが、今回の取り組みについて如何にマスコミが高く評価してくれているかを示す一例であると思われます。その後も、ほとんどの新聞社から取材があり、FM局や雑誌からの取材が続いています。9月からはNHKラジオの毎時定時ニュースの合間の時間の「お知らせ」で当NPOの寄付金募集を広報する、との協力の申入を受けています。
また、ここでいう「一般」の方の中には、今回法科大学院で実務家教員と一緒に教鞭を取る予定の研究者教員も含まれています。現に、今回の企画が報道されてから、当地の各ロースクールの教官候補者の研究者教員から、極めて好意的な意見が寄せられており、教員自身が賛助会員になることを希望しているロースクールや、大学で構想を説明したところ早速寄付の申込書はないのかという質問を受けたケースもあると報告を受けています。
6.理事・監事の構成
今回は、愛知県に設立される全部の法科大学院の実務家教員候補者に理事として入っていただきました。また、当会元会長や当委員会の制度部会の委員及び名弁の4支部全部の会員に理事として入っていただきました。
【理事】冨島照男・奥村 軌・加藤良夫・細井土夫・森山文昭・鈴木健治・藤田哲・荒川和美(西三河支部)・宮島元子・河邊伸泰(豊橋支部)・山崎正夫(半田支部)・榎本修・鈴木含美(一宮支部)・宮地宏安。なお、元中弁連理事長をはじめ中弁連内の他会からも更に理事を募る予定です。
また、監事には、紋別日弁連ひまわり基金公設事務所初代所長の松本三加弁護士(二弁)、その松本弁護士を応援してきた旭川弁護士会の辻本純成弁護士(元当会会員)に加わっていただきました。
7.今後の課題
9月から弁護士・一般に広く賛助会員を募集します。これがどの程度集まるか。また、過疎に悩む他の単位会や行政にまとまった寄付を募ることも企画しています。この試みもどの程度成功するかは未知数です。更に、国税庁の認定は、活動実績が2期必要な為、すぐには認定が受けられません。そのような中で財政基盤を確立して、安定して奨学生を送り出してゆくには、相当な努力が必要です。
また、奨学金制度の詳細を早期に固め、平成16年度の奨学生の採用人数を確定して、広く告知してゆかなければなりません。最近報道されている日本育成会など公的な奨学金や大学独自の奨学金との併給の可否等も検討が必要です。全国初の取り組みであるからこそ、課題は山積しています。
しかし、今回の取り組みについては受験生からも大きな反響が寄せられています。若者達の中にも「困っている人の役に立ちたい」という素朴な正義感を持っている人の数は決して少なくないように思われます。我々が次世代を担う後輩に如何なる支援や教育をしていくことができるか、今は正にそれが問われている時代だと思われます。
会員の皆様のご理解と暖かいご協力を切にお願い申し上げる次第です。