学校講師派遣の実践例 〜新しい法教育への挑戦


学校講師派遣の実践例 〜新しい法教育への挑戦

会 員    魚 住 直 人

 私は、中学校および私塾において弁護士による授業を行った。私塾での授業は学校講師派遣ではないが、小学生相手の授業であり今後の法教育検討の参考になると思うので、敢えて記載する。ご容赦いただきたい。

 中学校ではディベートを行った。まず、ディベートのテーマを中学校の先生と協議して決定する。「アイドルの自宅住所掲載本発行の是非」などである。次に、学校にアンケートを送り、授業を受ける全生徒に答えてもらう。このアンケートには、賛成か反対かの結論・その理由、および当日ディベーターをしたいか陪審員をしたいかを記入してもらう。さらに、弁護士への質問や一言自己紹介などの記入欄も設けておいた。
 ここからの準備が大変であった。まず、すべてのアンケートに目を通し、生徒の希望も加味した上で、ディベーター候補者を賛成・反対各6名選ぶ。3クラス分であったから、約120名のアンケートをチェックした。次に、各クラス毎のディベーター候補者リストを先生に送った。先生は、普段から生徒と接しておられ性格等もご存じであるから、「この子は文章で書くと上手いが、口頭での発表は苦手」などの意見を伺って協議を行い、最終的にディベーターを決定した。
 当日は、双方に応援弁護士がつき、ディベート開始。まず、3名程度に賛成・反対の理由を述べてもらう。その後、応援弁護士から意見を述べてもらって5分程度の作戦タイム。この作戦タイムが面白い。自信なさそうであった生徒に「その意見いいよ、自信持って発表しようよ」とアドバイスするだけで堂々と発言できるようになる。「子どもは誉めて育てろ」とはよく言ったものだと実感する。この間、司会役の弁護士は裁判員の生徒に自由演説。民主主義の意味などを生徒にわかりやすく解説した。
その後、生徒が最終意見発表を行う。これを踏まえて陪審員の挙手で評決をとる。生徒は勝ち負けが気になるようであるが、民主主義における価値の相対性を強調する。
 最後に余った時間で、アンケートに記載された生徒の質問で多かったものに答えた。

 他方、小学生相手の私塾では、法律クイズを行った。民事・刑事各1問ずつビデオで問題を流し、?児童個人の意見、?10名程度のグループで議論した上での意見をそれぞれ発表してもらうのである。この問題ビデオのシナリオは弁護士側で作成する。ポイントとなる部分を伝えて、私塾の先生方出演による問題ビデオをホームビデオで撮影してもらう。事前にビデオを見てチェックした上で、子ども用と親用の解説を作成しておく。
 当日、児童は、ビデオを見て笑いながらも必死で考えている。一例を挙げると、怪獣ごっこを友人の家の中でしていて、誤って高価な花瓶を割ってしまった場合に、割った子の親に損害賠償義務があるか、という問題であった。ビデオでは、先生方が子どもに扮して怪獣ごっこをしておられた。児童はビデオを見た後、まず自分の回答を記入し、グループ討議に入る。4年生は自分の意見を発言するだけだが、6年生ともなると、相手の意見を踏まえて反対意見を述べていた。15〜20分程度のグループ討議を横から覗きながら解説手順を検討する。解説において、児童は正解か否かだけが気になるようであるが、他人の意見を受け容れることの大切さも含めて、法律をかみ砕いた解説を行った。わかってもらえたかなぁ。

 拙い経験談は以上である。中弁連シンポを契機として、今後の若年層への法教育が充実していくことを期待して止まない。