法科大学院をめぐる最近の動きから


法科大学院をめぐる最近の動きから

法科大学院検討特別委員会 委員 成 田   清

設置認可申請に72校

 6月末日、来春の開設をめざす法科大学院の設置認可申請が締切られた。新聞報道では、今回申請したのは72校(国公立22校、私学50校)。地域別では、北海道1(国立1)、東北2(国立1、私学1)、関東34(国公立6、私学28)、中部8(国立2、私学6)、関西15(国公立4、私学11)、中国4(国立3、私学1)、四国1(連合)、九州(含琉球)7(国立4、私学3)であるが、うち46校(67%)が、首都圏(東京・千葉・神奈川・埼玉計31)と近畿圏(大阪・京都・兵庫計15)に集中した。弁護士過疎解消のため、適正配置が叫ばれてきたが、法科大学院の設置されない空白県は23県(東北5、関東4、中部4、関西3、中国2、四国2、九州3)となり、日弁連の重点支援決議の対象となっていた岩手・静岡は今回の申請を見送った。

72校の入学定員総数5950人

 この数は、40−50校で総数4000−5000人かとの予想を大きく超え、審議会意見書の「2010年で新司法試験合格者3000人を」「7−8割が合格できる教育レベルを」目指すこととは乖離した結果となった。下位校では、合格率50%を切る事態を懸念する新聞報道もあり、少子化時代の生き残り策として各大学が凌ぎを削り申請に殺到したとの感は否めない。
 今後、大学設置・学校法人審議会の「法科大学院特別審査会」の審査で相当とされたものに対して12月に設置認可される。
 従前より、基本科目(民法・民事訴訟法など)の研究者数が不足しているため、申請準備中にも各校間で教員の引き抜きが頻繁に行われてきた。72校のすべてが設置基準を満たす質の高い教員を確保できているのか、教員審査で不適格意見が付き、申請自体を取り下げざるを得ないものもありはしないかとの声も聞こえている。

教員審査に不適格意見続出との報道

 8月21日付の新聞は、「設置認可申請に対して、教員審査の結果が各校に通知された」と報道した。研究者教員については「最近5年の研究業績」が、また、実務家教員については「最近5年ないし10年の実務経験」が、さらには、業績と担当科目との関連も検討された結果、「約20校において不適格または保留とする意見が続出した」という。
 不適格とされたケースの中には、研究者教員としての業績や年齢(高齢)を指摘するもの、研究者教員を配すべき基本科目に実務家教員を配したところ、研究実績不足を指摘されるなど、担当科目の不適合を指摘されたケースもあり、審査基準が公表されなかったことによる混乱もみられるが、教員審査が質を確保する要諦なのでおろそかにはできない。
 9月には、カリキュラムの在り方や教員組織などにつき、「総合意見」が各校に伝えられるが、ここでも補正を要するものが出てくると思われる。なお、教員審査の「不適格」「保留」意見については、教員を10月までに差し替えなければならないが、教員不足の現状から差し替えの困難なケースも多いであろう。
 このような経過をへて11月末の設置認可となるが、認可が何校かは予断を許さない。
 しかし、開校後には、第三者評価機関の第三者評価基準による厳しい評価が待っている。設置認可の審査が厳しいことは法制上も予定されていたことなのである。

適性試験の実施と入学試験の日程

 8月に入り、法科大学院受験者全員に課せられる適性試験が実施された(大学入試センター8月31日受験者3万人、日弁連法務研究財団8月3日同2万人)。
 受験者は双方を受験していると考えられるので、実質受験者数は3万人か。尚、本年の司法試験出願者数は5万人である。
 各大学は、適性試験の結果と試験(法学既修者については、法律科目試験を含む)・面接・社会経験などを総合して合否を判定するが、入試日程は1月中旬に集中するために、多数校受験はしにくくなる。
 また、法学部3年からの飛び級を認める法科大学院もある。

学費と奨学金のゆくえ

 7月31日付の新聞は、「文部科学省は国立の法科大学院の授業料を70−80万円の間で設定すると発表した」と報道した。これにより、私学が予定する授業料(150−200万円)との間には100万円前後の差が付くこととなった。
 その後、8月22日付けの新聞は、「文部科学省は私学助成の特別枠として総額50億円の補助金と、国公立も含めた専門職大学院に対する補助金75億円も活用する方針を示した。私立が、特別枠の補助金を授業料の減額のために使うとすれば・・・年60−40万円程度圧縮できる計算となる。一方、現在の大学院生向け有利子奨学金月額13万円を、国公立・私学を問わず学生の8割を対象に月額4万円か7万円の増額を認め、最大で20万円まで上限を引き上げる。無利子奨学金(現行では修士課程で月額8万7000円)も含め総額85億円の奨学金を設けることで財務省との折衝に臨む」と報道した。概算要求の段階だが、日弁連の経済支援の要請活動の成果であることは間違いない。今後は、さらに、奨学金やローンを利用した場合、返済額が適正なものとなるかを検証する必要がある。その中で修習生の給費制の堅持の必要性も浮かびあがるであろう。

法科大学院説明会

 7月末には学生を対象に、説明会やシンポジウムが各所で開催された。某新聞社主催のものでは、司法試験塾の担当者が説明したが、塾は特需という。また、法科大学院の広告でも、知財だ国際化だと専門分野の特色ばかり謳うものが目につき、どんな法曹を育てたいのか読めないものがある。これでは、学生諸君の選択を誤らせないか。
 先日、Y新聞社のシンポに呼ばれ、発言の機会を与えられたが、企業法務や地方自治体関係者からの法科大学院の多様性のある教育に期待するとの発言が先行したので、意識的に原則論を述べてみた。
 「法科大学院は、法曹資格を取得するための専門大学院です。法科大学院を卒業し、新司法試験に合格した後、1年の修習を経て、法曹資格が付与されます。裁判官・検事・弁護士−法曹三者と呼ばれますが−は、ともに司法の一翼を担う社会的な責任のある仕事です。社会正義を実現しようという使命感と高い倫理観を求められます。法科大学院に学ぶ人には、人権侵害や社会の不正・不公平に対して敢然と立ち向かう法曹になってほしいのです。使命感があってこそ、従来の大学教育とは比較にならないハードな勉強をこなせるのです。大学の先生方にも、そういう教育をして欲しいのです。そういう法曹であればこそ、裁判外の業務に進出し、企業法務や自治体の中でコンプライアンスを担当して力を発揮できるのです。」「法科大学院の卒業生の7、8割が合格するとの趣旨(審議会意見書)は、そのような教育を目指すということです。当然に合格するということではありません。学生さんの勉強ぐあいや先生方の教育によっては1−2割になるかもしれません。」と。
 シンポのあと、各ブースで全国の法科大学院の教員による説明会が開催されたようであるが、さて学生諸君は、どうい
う基準で法科大学院の選択をするのであろうか。

 来年4月の開校に向け、法科大学院の姿は少しづつ見えてきたが、本当に良い制度として発足できるように見守っていく必要がある。