日弁連死刑問題韓国視察旅行報告
          ソウル拘置所編・・・・未決囚及び死刑囚の処遇


名古屋弁護士会人権擁護委員会死刑問題研究部会
部会長
 村 上 満 宏

1 はじめに
 みなさんは、接見の際に、許可なしでノートパソコンを持ち込んでみたいとか、仕切無しで被疑者被告人と頭をつき合わせて打ち合わせしたいとか、思ったことがないでしょうか。
 また、確定死刑囚が冤罪で再審請求しており、監獄法で、未決勾留者に準じた扱いとされているにもかかわらず(9条)、未だ接見ではなく面会制で運用されている実態をどう思われるでしょうか。
 又、面会でも、手のかかる子供連れの妻が、夫と接見したいけれど、子供には夫の姿を見せたくないと思っている場合に、拘置所に託児所などがあれば、どんなにいいことだろうと思ったことがありませんか。
 お隣の国韓国では、日本の法制度を取り入れたと言われているのに、ソウル拘置所では、日本の法運用より原則的な処遇がなされ、さらに進んでいるという印象を持ちましたので、参考のため、報告させていただきます。

2 一般面会室
 見学早々、面会受付会場の広いことに驚かされました。一日で1200名の人たちが面会できるようになっているとのことであり、面会を待つ人だかりは、日本では見られない光景です。
 見学当時も面会受付け会場は、沢山の人であふれており、受付番号と面会室の番号が電光表示板に表示され、それに従って面会する段取りになっていました。
 面会室は33室あり、面会室の外では次の面会を待っている人が並んで待ち、時間になるとアナウンスで、一斉に交代していました。
 面会室にはいると日本と同じように仕切が存在し、収容者と面会者が接触できない状況になっている点では同じでしたが、一般面会場付近に、子供が伸び伸びと遊べるような大規模な託児所が設置されていたことに驚かされました。また、遠隔地の人でも面会できるよう、インターネットを利用したテレビ電話による面会も為されており、これには一言「マージ(本当)かよ。」でした。

3 弁護人接見室
 弁護人接見室も、33室あり、すべての部屋が、ガラスによって仕切られ、外からみて、接見している様子を伺い知ることが出来るようになっていました。
 接見室にはいると弁護人と収容者とが仕切なしに相談できるようになっており、机の上で図面を拡げて頭をつき合わせながら相談することもできるし、ノートパソコン用の電源も設置され、これを使用しながら、接見できるようにもなっていました。
 仕切がないため、被告人らに襲われるとの懸念もありますが、外から接見している様子が分かるよう監視されているので、かかる不安も解消されております。その意味で接見室のあるべき姿を見るようでした。

4 通路に設置された電話ボックス
 既決囚は、原則として電話することが許され、未決囚は許可があれば電話することが出来るシステム(一回3分)になっております。
 我々の視察当時、実際に収容者が監視員に随行され、電話している場面を見学することが出来ました。監視員は、内容が不適切なときには阻止できるよう、電話ボックス内に座って、聞いていました。こんな光景が拘置所内で見れるとは思ってもみなかったため、視察団一同は驚きを隠せない様子でした。

5 教誨室
 教誨室は、大講堂から個室まで施設としては相当なスペースを占める形で配慮されております。
 視察したときには、大講堂に沢山の収容者が満席状態で集められ、カトリック系の教誨活動がなされていたり、各個室では仏教をはじめとする各宗派によって独自の教誨活動がなされていました。
 また視察途中で個室内で死刑囚2人と教誨師とが面会されており、我々視察団もドアを開けた状態で死刑囚と挨拶を交わすことが出来きたことは画期的なことでした。面会室は全く仕切がない状態で教誨師が面会できるようであり、手と手を触れあうことも出来る状況でした。
 死刑囚二人とも、その表情が、とても明るく清々しい感じを受けたのは意外でした。
 もちろん、このような事態を想定して、あらかじめ法務大臣から許可を得ております。

6 死刑囚の処遇
 死刑確定囚の処遇は日本と同じように一般未決囚の規定を準用するとの規定があり、実際の運用もその規定どおりに運用されております。
 さらに、外部から聖職者を呼び、積極的な活動がなされているとのことでした。
 通信については、電話による通話が死刑囚の場合にも必要時に所長の許可を受けてすることが可能であるそうです。
 面会・書信については一般の未決囚と同じであるが、検閲があるとのことです。
 教誨については、カトリック、プロテスタント、仏教などの交流を図っており、特に死刑囚の場合には、外部の教誨師などの人々と姉妹結縁(義兄弟関係)を結び、人間的な交流をもつことができるよう配慮されているようです。
 死刑囚との弁護人接見は立会人無しで行われ、再審請求中かどうかは問わないとのことであり、一般の未決囚と同じであります。又一般面会についても、一般収容者の場合と同じように、誰でも制限なく面会でき、家族はもちろん友人も許されているそうです。日本の運用とは違います。
 差し入れについても一般未決囚とまったく同様とのことでした。

7 
韓国では死刑廃止運動が宗教界を中心に盛んであり、それが原動力となって、現在国会で死刑廃止法案が審議されております。宗教界を中心とした運動の盛り上がりの要因には、様々な点が考えられますが、その源となっているのが、死刑囚と教誨師との触れあいから姉妹結縁(義兄弟関係)が生まれている点にあることを痛感させられました。そしてその点に当局がなんら抵抗を示さず、むしろ配慮した法運用のあり方をしている点には、日本の処遇制度のあり方にたいへん参考になる点だと思われます。