名古屋弁護士会人権擁護委員会
死刑問題研究部会
部会員 村田武茂
韓国に到着した当日、西大門刑務所跡を見学し、早速、午後4時からマスコミ関係者からのお話を聞く機会を得た。
出席していただいたのは、東亜日報元社会部長の陸貞洙さんと東和日報社会部次長の崔英動さん。陸元部長によれば、金泳三大統領在職時までは、毎年年末に5〜8人の死刑を執行し、事前に執行を行うことを公表していたが(その目的は、一般予防のため)、それによって韓国の凶悪犯が減った、すなわち、死刑に一般予防の効果があるとは思えない、とのことであった。
金大中政権下では、死刑は全く執行されず、廬武鉉大統領も死刑は執行しないとの見込みと言われた。そうなると、韓国では、過去5年と将来5年の10年間にわたって死刑が執行されないことになる。ここで、死刑の一般予防効果についての論証が為されることになるのではないだろうか。
韓国の現代史を見れば、朴正煕大統領の独裁政権時代に、人民革命党事件があり、7人が死刑を宣告され、すぐに執行されてしまった。全斗煥大統領時代には、金大中大統領が死刑判決を受けている。金泳三大統領時代、彼は文民出身だが、死刑執行数はかえって増えた。97年だけで23人の死刑執行がされ、5年間で57人の死刑が執行された。韓国の歴史の中では、死刑が政治的な手段として使われたのであり、死刑制度の合理性を論証することはできないというのが、陸貞洙さんの基本的な考え方と思われた。
また、陸貞洙さんは、国民の感覚的な面では、死刑廃止は時期尚早と考えている人が圧倒的に多いと思うが、過去における政治犯としての冤罪の存在にかかわらず、何故死刑に鈍感でいられるのかが理解できないと考えておられ、個人としては、既に韓国国会に上程されている死刑廃止法案が実を結ぶことを期待していると言われた。
この外、我々が予想していなかった、匿名報道が原則との陸さんの発言があった。同席しておられた車弁護士によれば、東亜日報が被告となった事件において、二審では、言論基本法を立案し、この分野の権威である朴判事が事件を担当し、犯罪報道に関する匿名報道の原則を守らなかったということで東亜日報が敗訴したとのことであった。この判決については、現在翻訳が勧められている。
当初、憲法裁判所の見学は予定されていなかった。しかし、大法院見学後、是非憲法裁判所も見学したいと我々がお願いしたところ、李弁護士に車中から電話をかけていただき、これが実現した。憲法裁判所では、突然の要請であるにも拘わらず、事務総長に応対していただくことが出来た。
憲法裁判所は、1988年に設置されましたが、それまでに大法院で下された違憲判決は、総数で10件くらいにすぎなかった。ところが、憲法裁判所では、設置後の15年間で200件程の違憲判断を下しているとのことだった。この数字自体、我々からすれば驚くべき件数と思われる。広報ビデオでは、拘置所において、腰板しかないトイレが違憲とされたとの内容を見た。日本の刑務所では当然の設備ですあり、おそらくそのような事項について争った事件はないと思う。積極的に違憲判決を下す、憲法裁判所という制度に非常な魅力を感じた余韻を残しながら、韓国国立博物館を見学し、広隆寺の弥勒菩薩を彷彿とさせる菩薩像を見てから帰途についた。
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