韓国死刑制度調査報告


日弁連死刑制度問題に関する提言実行委員会
事務局長 小  林   修 

 日弁連による韓国の死刑制度調査が実施され、調査団10名のうち名古屋弁護士会からは3名が参加した(村田武茂,村上満宏,小林修)。
 調査日程は以下の通りであった。
 6月15日 西大門刑務所、マスコミ
   16日 大韓弁護士協会、国会、NGO,
   17日 大法院(最高裁)、法務部(法務省) ソウル拘置所
   18日 憲法裁判所


 韓国では,1998年に金大中前大統領が就任して以来,現在まで死刑の執行は停止されており、過半数の国会議員によって死刑廃止法案が国会に提出されている。死刑確定者の処遇も日本とは大きく異なっているとのことであり,このような韓国の実態を調査することになったのである。

 昨年11月,日弁連は理事会の承認を得て,「死刑制度問題に関する提言」を発表した。この提言は,死刑制度の存廃について国民的議論を尽くし,死刑制度に関する改善を行なうまでの一定期間,死刑確定者に対する死刑の執行を停止するという時限立法(死刑執行停止法)の制定を提唱する,そして日弁連は死刑存廃論議を提起するなどの取り組みを推進する,等を内容としている。現在の韓国の実践は、正に、この提言の趣旨と共通するものがあるとのではないだろうか。

 韓国調査のセッティングをしていただいた李相赫弁護士は、昨年3月に名古屋弁護士会が死刑問題のシンポジウムを行なった際,韓国から出席して特別報告をしていただいた方である。李相赫弁護士は,初日から最終日まで、すべての調査に同行してくれた。李先生の韓国法曹界における影響力の大きさが,今回の調査成功の要因であった。

 韓国の死刑執行停止
 韓国では、死刑が政治犯に広く使われてきたことから、民主化後は、政治家の中にも廃止論が増えたようだ。金大中前大統領も、元死刑囚である。では、執行停止の現状はどのような仕組みなのであろうか。
 検察局長の話では、韓国でも、死刑執行の場合は、法務部長官(法務大臣にあたる)の署名・押印が必要である。金大中大統領以後、この署名がなかったのは、長官が大統領の意向を踏まえた結果だという。
 即ち、実務でも必ず執行しなければならないと考えている人はあまりいない上、大統領には恩赦権があり、これまでも死刑囚を無期に減刑したことは多くあった。大統領の意向を踏まえるのは当然なのである。
 虞武鉉大統領になっても、状況が変わらない限り執行停止が続くようである。

 死刑廃止法案の行方
 虞武鉉大統領は、死刑廃止を公約に掲げて当選した。これで一気に廃止が実現すると思っていたが、そうでもないらしい。国会の法務委員会は検察出身の存置派が多く、廃止法案の委員会通過が困難だそうだ。
 虞大統領の側近ナンバーワンの鄭大哲議員は、「あまり性急に行くよりは腰を落ち着けて行くべきだ」と語り、「来年4月に公聴会。いざとなれば、4分の1の国会議員で本会議に諮ることもできる」として「死刑制度を死刑にする」と自信のほどを見せた。
 今後も韓国に注目したい。