子どもの事件の現場から〜「い じ め」


会員 朝倉寿宜

 学校内でのいじめ問題は、毎週土曜日に開催されている子どもの人権相談においても時々持ち込まれます。相談者は、子ども本人であることもありますが、多くは親からです。親は、我が子がいわれなき被害を受けたことに憤り、加害者やその親、学校の民事上・刑事上の責任を追及してほしいと訴えかけてくるものです。

 しかし、責任追及という警察的な対応は却って子どもを苦しめる結果になりかねません。被害生徒と加害生徒ないし学校との間に緊張関係を作り出すこととなり、仮にいじめがなくなったとしても平穏な学校生活を送るのが困難になってしまうからです。さらに、子どもがそのような事態を予想して穏当な解決を望んでいるのに、親が感情的になっていて責任追及に固執してしまっていると、子どもはなおさら苦しい立場に追い込まれてしまいます。いじめの当事者である子ども本人から、いじめの具体的態様だけでなく、現在の心境や今後どうしてほしいのか等の考えにつき、ゆっくり、じっくりと聞いてあげる必要があります。合わせて、学校に行きたくなければ行かなくてもよいこと、一般に言われている「いじめられる方も悪い」という考え方は間違っていることも説明して、子どもを安心させてあげるべきです。

 他方、加害生徒の方も、家庭・学校での生活等において悩み、苦しみを抱えており、それがその子どもをしていじめに走らせているケースもあります。このような場合、加害生徒にいじめの事実を突きつけて責め立ててみても、その子どもを精神的に追いつめるだけとなり、本当のことを聞き出すことができなくなるばかりか、さらなるいじめや非行等別の問題行動を誘発してしまいます。加害生徒に事情を聞くときにも、被害生徒に対する場合と同様に受容的な態度で臨み、ありのままの事実・真意を聞き出すことに努める外、いじめを不満のはけ口にしなくてもよいように助言・援助する態勢を整えていかなければなりません。

 これまでに述べたように、いじめの問題は加害生徒らに対する責任追及によって解決されるものではなく、被害生徒のみならず加害生徒に対しても支援していく必要があります。そして、いじめにより発生した生徒間関係の問題を修復していかなければならないわけですが、そのためには学校の理解と協力が不可欠です。しかし、学校の中には、「いじめの事実が確認できなければ何もできない」と警察的な対応しか念頭にないところが少なくなく、また被害生徒・加害生徒に握手させ形式的に仲直りさせて安易に「解決した」としてしまうこともあります。ひどいところでは、10人の加害生徒と一人の被害生徒を教師の立会もなく密室で話し合わせた学校もありました(当然話し合いになるはずもなく、さらに深い心の傷を負わされ、登校することさえできなくなってしまいました)。学校に期待されるのは、加害生徒への糾問的な「指導」ではなく、子ども相互の関係を始めとする生活環境の改善調整の役割です。

 この環境調整は、学校だけでなく家庭との連携により図られなければなりません。弁護士は、子ども・学校・家庭それぞれの関係のいわばコーディネーター役として活動するのが適切と考えています。