中部経済新聞2011年10月掲載
公正で自由な取引を実現するために独禁法による規制2
先回に続いて、独占禁止法(以下、独禁法)が規制している不公正な取引方法について説明しましょう。まず、独禁法は、再販売価格を拘束したり、不当な排他条件、その他の不当な拘束条件をつけて取引をすることを不公正取引として規制しています。たとえば、メーカーが、卸業者らに対して、卸業者らの販売価格を指示するケース(再販売価格の拘束)や、事業者が、自己の競争者と取引をしないことを条件にして取引をするケース(不当な排他条件)や、取引先や販売方法、販売地域等を制限して取引をするケース(不当な拘束条件)などがあげられます。 もちろん、形式的にこういったケースに該当しても、公正な競争を阻害しない場合や取引上の合理性や必要性がある場合には、不公正な取引には該当しません。結局は、個別具体的に判断することになります。
難しそうだなぁ。
では、社長は、「優越的地位の濫用」という言葉を聞いたことがありますか。
ないなぁ。
そうですか。優越的地位の濫用とは、文字通り、優越的地位にある一方の当事者が、他方当事者に対して、取引にあたって、その地位を利用して不当な要求をするケースをいいます。たとえば、大手の量販店や百貨店が、納入業者に対して、無理に商品を買わせたり、広告費や改装費を負担させるといったケースです。無償で社員の派遣を要請し、棚卸しや販売業務を手伝わせるようなケースも該当しえます。
力のある方が弱い者いじめをするようなイメージかな。以前、説明してもらった下請法も関係がありそうだね。

その通りです。下請法は親事業者による優越的地位の濫用を迅速に規制するために設けられたもので、独禁法の特別法です。下請代金の支払いの遅延や減額、不当な返品や受領拒否などが規制されています。

でも、どうしても取引をしたければ、多少の負担を我慢することがあるかもしれないなあ。
その「どうしても取引をしたければ」というところがミソなんです。優越的地位にある事業者は、取引相手は取引をしたがるだろうから、無理な要求をしても我慢して応じるだろう、と考えて、不当な要求を押しつけがちです。他方で、取引相手も、自分より強い立場にある事業者から、商品を買ってくれとか広告費を負担してくれなどと頼まれると、本当は余裕がないのに、「断るともう取引をしてもらえなくなるかもしれない」と思って応じてしまいますよね。でもそれでは、公正な取引とは言えません。
ただ、お互いが良ければ問題ないのではないの。
そうとは言えません。独禁法は、公正で自由な競争を確保することで、弱い立場の事業者だけでなく消費者の利益を確保することも目指しています。ですから、いくら当事者が構わないと言っても、独禁法違反となることがあるのです。
わかったよ。では、どんな場合に、優越的地位にあることになるのかい。
一般的には、その事業者が当該取引市場で占めるシェアや、 その事業者との取引への相手方の依存度、相手方の取引先変更の可能性等の諸要素を考慮して、判断されます。
優越的地位の濫用の場合も、公正な競争を阻害しない場合などには不公正取引にはあたらないのかい。
そうですね。正常な商習慣に照らして不当かどうかを判断することになっています。これも個別具体的な判断になります。
なんとなく、イメージはつかめたよ。
では、独禁法に違反した場合には、どんなことになるの。
公正取引委員会が、違反した事業者に対して、排除措置命令を出します。違反行為を取り除くための措置を命じるものです。
また、一定の違反事業者に対して、課徴金が課せられることがあります。さらに、一定の違反を行った企業や業界団体の役員に対しては、罰金などの刑事罰も定められています。公正取引委員会のホームページには、排除措置命令や課徴金納付命令が発せられた事案が掲載されていますよ。
では、取引の当事者間ではどのような効果があるのかな。
当事者間の契約は必ずしも無効になるとは限りませんが、独禁法上、一定の行為により被害を被る当事者には、当該行為の差止請求が認められていますし、損害賠償請求も認められています。 独禁法をあまり関係のない法律だと思っておられるかもしれませんが、知らない内に、違反して加害者になっていたり、逆に、被害者になっていることがあります。少しでも関係がありそうだと思ったら、是非、ご相談下さい。