中部経済新聞2011年7月掲載
【聞之助ダイアリー】 
弁護士をやっていて,辛いことは多い…。

弁護士をやっていて,辛いことは多い…。

その一つが,過去に弁護した人が再度逮捕されることだ。先日も,昔,痴漢の弁護をした人が逮捕されたと聞いた。

刑事事件では,事実関係に争いがない場合,情状弁護に力を入れる。被害弁償などがその代表例であるが,被害弁償と同じく弁護士が重視するのは,二度と犯罪をしない環境を整えることにある。犯罪の原因を取り除くことに力を注ぐのである。

この件も,私は,被害者を慰謝する努力をする(最近は,検察官を介さないと被害者と連絡がとれず,この件では,最後まで連絡先すら教えてもらえなかった。これも辛いことの一つ…。)一方で,監督者として,家族の協力(家族からも見放されてしまう人が多い)を求め,また,何故衝動を抑えられないのか,精神医学的な治療を受けさせるため,性犯罪も取り扱う精神科の医師とも連絡を取り,社会復帰した際には,受け入れてもらう約束を取り付けるなどした。

私が弁護した時で,既に同種前科があったので,実刑になることが予想されたが,彼は,実刑になったとしても,社会復帰した後は,その専門医療機関に受診し,必要であれば入院し,必ず更生すると約束してくれた…。

結果,私の弁護では,彼の再犯を抑止できなかった。残念であるし,新たな被害者に申し訳なく思うのである。

彼の犯罪傾向は病的な面もあり,認知行動療法などを取り入れた精神医学に基づく適切な治療が必要である。適切な治療を施した場合,その予後は決して悪くない。しかし,彼は社会復帰後,精神科の下を訪れなかった…。

もし,更生意欲が旺盛であった刑務所内において,適切な治療を受けることができていれば,結果は違ったのではないだろうか。

刑務所といえば,罪を償う場所であり,社会隔離をして労役に従事させるという応報的な役割が目立つ。しかし,一方で,犯罪者に対する教育・矯正という重要な役割を持つ場所であることも忘れてはならない。

犯罪傾向を食い止める教育,あるいは認知行動療法など精神医学的な治療なども含め,より細やかな犯罪者処遇を行うことができれば,再犯率は低くなる。

今の刑務所は,予算の問題もあり,認知行動療法などの精神医学的な治療を含めた処遇はなかなか実現できていない状況であり,教育・矯正の機能が十分に発揮できていない。

裁判員制度がはじまって2年が経過した。その間,人を罰するということについて,広く議論がなされてきたと思う。しかし,その先の,刑罰が本当に更生に繋がっているのか,刑罰の中身,犯罪者処遇ということにも目を向けてもらいたい。

(Y・M)