中部経済新聞2011年7月掲載
従業員による車両事故…会社の責任と安全対策
会社の従業員が仕事中に居眠り運転や飲酒運転で人身事故を起こして逮捕されたなんて話はときどき耳にするけど、ああいう場合、我々の責任はどうなるのかな。
従業員が業務に関連して車両運転中に事故を起こしてしまった場合、会社側も重い法的責任を問われる可能性がありますよ。責任の種類としては、罰金刑や懲役刑、科料が課せられる「刑事責任」、被害者への賠償金支払義務を負う「民事責任」、貨物・旅客運送事業者(以下「運送事業者」)に一定期間の車両使用停止、事業停止、営業許可取消処分が科せられる「行政責任」の3つがあることは以前にもお話しましたね。

●刑事責任
そう言えばそうだったかな。会社の刑事責任って直接運転してない我々まで?
仮に会社側が、従業員に厚生労働省の定めた基準を超えた過労運転をさせたり、飲酒や病気や薬で正常な運転ができないおそれがある状態での運転をさせ、もしくはそのような運転を容認していた場合、道路交通法の酒気帯び・過労運転等の禁止違反として、代表者や運行管理責任者など会社側の責任者も5年以下の懲役又は100万円以下の罰金、法人等事業主体も100万円以下の罰金又は科料を課せられる可能性があります。ようするに、運転自体はしていなくても、会社側の管理がずさんなために当該事故を誘発したといえるような場合には、会社側も刑事責任を免れないということです。よく従業員が居眠り運転で事故を起こしたような場合、会社にも捜索が入り、タイムカードや運行記録などが押収されたと報道されていますよね。あれは捜査機関が運転手の勤務状況を調べて事故原因を解明するとともに、会社側にも刑事責任を問うべき事情があるかを調べているのです。

●民事責任
なるほど。それは怖いな。では民事責任は?
民事責任の場合は、運転者である従業員が不法行為の要件を充たす限り、原則として会社も被害者へ直接の賠償責任を負うと考えた方がよいでしょう。法的根拠としては、民法715条の「使用者責任」と自動車損害賠償保障法(自賠法)3条の「運行供用者責任」があります。適用対象ですが、使用者責任は、運行供用者責任のように、車両運行による人身事故に限らず、自転車による事故も、物損事故も含みます。また、いずれの場合も事実上会社側の指揮監督が及ぶ状況で起こった事故を広く含みます。必ずしも実際の仕事中に起こった事故や、社用車運転中の事故に限られません。 条文上は一定の要件を充たせば責任を免れる免責条項がありますが、非常に厳しい要件ですし、これを立証するのは極めて困難ですから、事実上会社側の無過失責任といえるでしょう。ですから、避けることができずにやむを得ず起こってしまった事故に備え、強制保険のほかに、任意賠償保険への加入は必須です。

●会社がやるべき事故防止策
しかし、人命に関わることですから、まずは事故そのものを回避するための万全の安全対策こそがとられるべきです。
具体的にはどんなことが考えられるかな。

まず、車両運転が不可避な職種の新規採用時など、応募者の適性と職務遂行能力判断のために合理的かつ客観的に必要といえるような場合は、採用段階で、健康診断を実施したり、特定疾患の有無についての診断書や交通事故歴についての運転記録証明書の任意提出を求めることが考えられます。なお、平成21年から、運送事業者は、ドライバー新規採用時、運転記録証明書等の提出を求め、それまでの交通事故歴などを把握することが法的に義務付けられています。

運転記録証明書ってどこで手に入れることができるの。
各地の自動車安全運転センターで入手できます。 それから、採用後も安全運転のための講習を定期的に実施したり、健康診断や適性診断を行うことも有効です。ただし、仮に、睡眠時無呼吸症候群等、車両運転業務に差支える可能性のある疾患が明らかになった場合でも、直ちに解雇することはできません。会社側も、医師の服薬指示や健康指導が守られているかにつき独自に健康状態を管理したり、必要に応じて配置転換を行うなどして雇用維持に努める義務があります。 その他にも、勤務時間及び乗務時間に関する厚労省基準を遵守すること、そしてその遵守状況を記録化するといった労務管理は不可欠です。また、今年5月1日から、運送事業者は、点呼時にアルコール探知器使用が法律上義務付けられました。現在のところ点呼状況についての記録化までは義務づけられていませんが、記録化することで、より遵守が徹底され、管理もし易くなりますので、記録化をお勧めします。