中部経済新聞2011年6月掲載
【聞之助ダイアリー】
被災地へ相談に出向いて

やや古い話となるが、さるGWに3日間、宮城県各地の避難所に出向いて相談を受けてきた。写真や映像で理解した上で行ったつもりであったが、2次元で見る「ビルの屋上に流された自動車」と、女川町で目の当たりにしたそれとは全く別物であった。現地では当然であるがビルを見上げて屋上にある自動車を見る。その高さが感覚として納得できないのである。その高さまで津波が押し寄せたことを現実として捉えられない自分に戸惑った。

また、写真では分からない臭いにも悩まされた。石巻市では津波で打ち上げられたヘドロのような臭いが漂っていた。避難所の小学校校庭に設置されたトイレも仮設トイレであったため、入った瞬間、排泄物の臭いが鼻をついた。臭いとは別であるが、倒壊した建物からアスベストも出ており、ために石巻市では肺炎患者が急増しているとの情報もあった。同行者が準備してくれた米軍モデルのマスクを着用したが、臭いに関しては効果は???であった。

震災から1ヶ月半を経過し、電気は復旧している地区が多かったが、多大な努力にも拘わらず水道、ガスの復旧状況は今一歩の状態であった。被災者には申し訳ないが、「普通の生活」を送れることの幸せを心の底から感じた。


さて、相談である。災害救助法も勉強した。被災者生活再建支援法も原子力損害賠償法も勉強した。きっとお役にたてるはず。そんな思いは初日から見事に裏切られた。前記の法律等に基づく各種支援の内容は避難所のそこここに掲示されていた。被災者の方々も相応の内容は既にご存じだったのである。

むしろ、平時の回答では全く役に立たない究極の判断を迫られた。市役所や事務所で相談を受けた場合には「それはダメです」と回答する問題を、そこを何とか助けて欲しいという相談が多かったのである。もちろん弁護士として相談を承っている以上、違法行為に加担するようなアドバイスはできない。しかし、津波ですべてを流され、日々の生活に文字通り精いっぱいの方々の悲痛な叫びを、法律どおりの紋切り型の回答で済ますことはできなかった。結果、法律的には無理だけれど、こんな対応は考えられないか、など別観点からのアドバイスを必死で考えることとなった。「陸に上がった河童」さながらであった。

日頃、弁護士は「困った時は弁護士にご相談を」とアピールしている。しかし、今回のような究極の「困った時」には、平時を前提とした法律は、被災者にとって有害となるケースさえあった。

十分な支援のためには特別立法を待つしかない。弁護士という職業に無力感を覚えた。


とは言え、立法府の方々の動きは勢力争いが目につき、「未曽有の災害に対する被災者支援を」との掛け声ばかりで、どこを向いて政治をしているのか理解できない。被災者の方々も納めた税金である。被災者が少しでも早く「普通の生活」を送れるよう、予算は有効に遣って欲しい。(NU)