中部経済新聞2011年3月掲載
民法が変わる?
〜改正の必要性も含めて、慎重な議論を
民法(債権法)が改正されるらしいって聞いたんだけど?
法制審議会で平成二一年一一月二四日より民法(債権関係)部会を開催しています。
そもそも改正しないといけないのかい?
民法改正の必要性を主張する委員の見解を要約すると、
(一)判例・解釈で確立した法原則を明文化し、「誰でも読んでわかる民法」にする、
(二)二一世紀に則し、現代化したものに民法を改正する、
(三)特別法で規定されているルールを民法に取り戻す、
(四)世界に通用するルールをアジアから発信する、
といったあたりが主張されています。

難しいね。
それにしても、最近、会社法を始め、法改正が多いよね。
確かに、ここ数年、会社法、信託法、破産法、不動産登記法、保険法、その他の重要法令の改正が相次ぎました。ただ、いずれも三〜四年のごく短期間のうちに法案が作られ、法制審議会と短期間のパブリックコメントによって国民の意見を聞いたものとして、国会で審議され可決されているため、問題のある条項が含まれた改正もなされている、と言われているところです。
それは困るなあ。民法は、我々の生活や取引に関わる身近な法律だよね。そんな法律まで簡単に変えていいのかい?
おっしゃる通りです。民法は、基本法中の基本法です。国民の生活に与える影響の大きさは、ここ数年で改正された法律と比べても比較にならない程大きいものですから、より一層、慎重な議論が望まれます。
何か急いで改正する理由があるの?
ないと思います。改正の必要があるとしても、先程お話しました民法改正の理由として主張されている点からして、いずれを取っても改正を急ぐ必要性に乏しいことは間違いない所です。従って、十分に時間をかけた検討が必要であると思われます。
そうだよね。
学者の議論においても、「壊れていないものを直す必要はない」との重鎮の意見に代表されるように、法制審議会の議論における多数意見に対して、反対意見も根強いと聞きます。
具体的にはどのように変えようとしているの?
今回計画されている改正には、これまでの裁判所の判例を条文に取り入れる部分と、これまでの制度をあえて変更する部分とに分けられます。前者は特に異論がないのですが、後者は問題があるとの意見も少なくありません。特に過失責任(損害が生じた場合、過失のある人が責任を負うとの原則)のように、従来は根本原理と考えられていた制度まで変更しようとしているような点については、学者や実務家からかなり批判があるようです。
弁護士会では、どんな対応をしているのかい?
愛知県弁護士会では、民法改正は、国民、学者、及び実務家が、十分に時間をかけ、改正の要否を含めて検討した上で手続を進めることができるようにすべきであるとの決議をしています。
具体的には、パブリックコメントの回数は、審議の経過に応じて、最低五回は必要である、としています。また、それぞれのパブリックコメントは、最低数ヶ月かけて募集すべきであるとしています。これまでの法改正におけるパブリックコメントは、一〜二ヶ月という非常識に短い期間で募集されるのが通例でしたが、国民・経済界・学者・実務家の側においてそのような短期間で十分な検討ができるとは到底考えられず、これが過去においてやや問題のある条項が含まれた法改正を産んだ理由の一つではないかと思われるからです。
全くその通りだね。
さらに、寄せられたパブリックコメントが法改正の過程に十分に反映されているか否かについても、従来、やや疑問に感じられる面がなくはなかったので、寄せられたパブリックコメントについては、適正に集約して公表し、さらに国民的な議論を重ね、法制審議会における議論に実質的な意味でフィードバックしていくべきだとしています。
なるほどね。いずれにしろ、十分に時間をかけて、我々国民のことを第一に考えた議論をしてくれよ。