中部経済新聞2011年2月掲載
【聞之助ダイアリー】
鰻丼と弁護士

私の好物は鰻丼である。30年前、修習生の頃は鰻丼は高かった。一番安い並丼でも千円を超えていたと記憶する。手取り10万円に満たない月給では、給料日にしか食べられなかった。月に一度の贅沢である。それを思うと、相対的に鰻丼は安くなった。ご飯の下に鰻が埋まっている上丼でも二千円でお釣りが来る。

卵も物価の優等生と言われて久しい。昔は病院に見舞いに行くときは、手土産として卵が定番だった。今はスーパーの安売りチラシの主役である。 値段が変わっていないのは実は鰻丼や卵だけではない。弁護士会の法律相談料も実は変わっていないのである。愛知県弁護士会の法律相談料が30分3000円から5000円に値上げされたのは昭和48年だったと聞く。当時は国立大学の学費は年間1万2000円、120円で大学生協のランチが食べられた時代であるが、なんと以後40年近く上がっていないのである。 今は報酬規定が無くなってしまったが、かつては報酬基準が定められており、その中で、法律相談料については、「初回市民法律相談料」と「一般法律相談料」が分けて定められていた。一般法律相談料は30分ごとに5000円から2万5000円の範囲で自由に各弁護士が決めることができたが(幅があるのは家賃や物価が地域で違うため)、初回市民法律相談料については、30分5000円から1万円の範囲で各単位会で定めることとされていたのである(愛知県は一律30分5000円)。この趣旨は、「弁護士事務所に相談に行きたいが、幾ら請求されるか分からないので、怖くていけない。」との声を受け、市民の方が個人的な事件で相談に行く場合は、相談料の金額を気にせず相談できるようにしたのである。 この規定については、(本音は知らないが)少なくとも愛知県の弁護士からは表だった不満の声を聞かなかった。もっと早く相談していてくれれば・・との思いは全ての弁護士に共通していたからだと思う。

その後個々の弁護士に関する報酬基準は無くなったが、弁護士会の法律相談センターの相談料は今も30分5000円(消費税別途)のままである。 昔が高すぎたとの声もあろうが、取りあえず弁護士の相談料は相対的に安くなった。まだ鰻丼一杯よりは高いが、後で後悔することを思えば鰻丼3杯分よりは価値があると思う。書類に印鑑を押す前に、相談センターに電話していただきたい。

(M・G)