中部経済新聞2011年2月掲載
債権譲渡特例
先々月だったか,中部経済新聞で,売掛金等の債権をまとめて担保に取る制度があるって読んだんだけど。
「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」(以下「動産・債権譲渡特例法」といいます)による債権譲渡登記制度を利用する方法のことですね。
それそれ。うちが商品を卸している取引先で,商品代金が焦げ付いている会社があって,未払代金を分割払いにして欲しいと言われたんだよ。
それで,担保として,その制度を利用したいということですね。
債権譲渡登記制度とは,「法人」がする金銭債権の譲渡について,登記を債務者以外の第三者に対する「対抗要件」とする制度です。

「対抗要件」?
はい。対抗要件には@債務者に対するもの(債務者対抗要件)と,A全くの第三者に対するもの(第三者対抗要件)とがあります。
例えば,図右側のように,A社がB社に対して有する債権を,社長の会社がA社から担保として譲り受けたとします。
この場合,民法では,社長の会社が@B社(債務者)に対して自分が債権者であることを主張(対抗)して支払請求するためには,譲渡人であるA社がB社に対して債権譲渡の事実を通知するか,B社から承諾を得る必要があります。

そう。
一方,その債権譲渡の事実を図左側のように,A全くの第三者,例えば,A社からさらにその債権を譲り受けたと主張する二重譲受人,差押債権者,破産管財人などに対して主張(対抗)するためには,このB社への通知又は承諾の手続は,内容証明郵便などの確定日付ある証書によって行わなければならないとしています。
確定日付?
文書作成の年月日について,法律上完全な証拠力をもつ日付のことです。簡単に言うと,譲渡通知がいつなされたか,日付を明確にすることで,二重譲渡された場合などにどちらが権利者になるかを明確に判断できるようにしたのです。
なるほど,内容証明郵便を送ることで,@債務者対抗要件とA第三者対抗要件を同時に備えることができるというわけだね。でも,それが登記とどう関係あるの?
この方法では,担保として債権譲渡の通知をB社に発送すると,A社の信用の低下をもたらすことになるので,譲渡時にB社に対する通知をすることを控え,A社が危機的状況に陥ってからその通知を発送していました。
ところが,この場合,A社が破産などの倒産手続に入ったとき,各対抗要件取得は既に危機的状況になった後でのことですので,破産管財人による否認の対象になっていました。否認されると譲渡の効力がなくなります。
それでは,担保として債権譲渡を受けても,意味がないよね。
そうです。そこで,
法人が金銭債権を譲渡した場合,あるいは金銭債権を目的とする質権設定をした場合には,債権譲渡登記所に登記をすれば,A第三者に対抗できるようにしたんです。
わからない…。
つまり,動産・債権譲渡特例法は,民法が確定日付ある通知・承諾という手続で@債務者対抗要件とA第三者対抗要件を重ね合わせていたものを切り離し,登記によって,B社に知らせずに,A第三者対抗要件を先に具備できるようにしたということです。これにより,万が一,A社が倒産等になっても,否認される可能性は小さくなり,担保としての意味を持ちますよね。
なるほど。A社の信用を低下させずに,担保としての実効性を持たせたわけだね。
そして,担保を実現しなければならない事態になった際に,B社に対しては,登記事項証明書を付した通知をし,債権の回収を図ることになるのです。
 それが@債務者対抗要件になるんだね。
そのとおりです。
ですから,実務上は,取引先に担保がない場合などに,売掛金などの債権譲渡を受けて担保に取るときの対抗要件具備の方法としての機能を有することになるのです。
へえ。
しかも,この制度は,近年改正され,債務者を特定していない将来債権の譲渡についても,登記によって第三者に対する対抗要件を備えることが可能となりました。

それは担保として魅力的だね。
ただ,B社の有する債権全部などとすると範囲が曖昧なので,例えば,「平成23年3月1日から平成25年2月28日までに発生した顧客との商品販売契約に基づく売掛債権」というような程度の特定は必要です。

難しいな。
また,この登記は債権譲渡の事実を登録するもので,権利の存在を公示するものではありませんし,譲渡禁止の特約がある場合には,対抗できない場合があります。
色々と検討しなければならない法律問題があるんだね。
そうですね。また,登記についても,譲渡人及び譲受人が共同して申請しなければなりませんし,債権譲渡登記を取り扱う登記所(債権譲渡登記所)も,東京法務局だけとなるなど,注意が必要です。詳しくは法務省のホームページにも掲載されていますから,参考にして下さい。
見てみるよ。話が具体化した時は,先生に頼むね。