中部経済新聞2010年12月掲載
【聞之助ダイアリー】
弁護士にお早めにご相談を。

 弁護士として日々法的紛争に接していると、相談者がもっと早い段階で弁護士に相談していてくれれば…と思うことが度々ある。

 例えば、「相続のもめ事に関わりたくない。」と考える相続人の1人が、他の相続人に相続分を全て譲渡すれば、相続手続や遺産を巡る争いには関与せずに済むと誤解して、他の相続人の求めに応じて相続分の譲渡を行っていた、という事案。

 家庭裁判所への申述が必要な相続放棄であれば、「その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみな」される(民法939条)という効果があるが、当事者間の契約に過ぎない相続分の譲渡の場合、たとえ相続分の全てを譲渡しても相続人の地位を離れるわけではない。

 被相続人に借金があった場合、相続分を譲渡した者であっても対外的には相続債務を負担せねばならないし、遺産確認の訴え等の法的紛争に巻き込まれるリスクもゼロではない。
もし相続放棄をしていれば、そもそも「相続人ではなくなる」ので、相続債務を負担することは一切ないし、法的紛争の当事者にもなり得ないのだが…。

 また、離婚の際に、公正証書で養育費を定めておけば、養育費が減額されることはあり得ないと誤解し、義務者の年収からみて高めの養育費を定める一方、慰謝料・財産分与は請求しないとの合意をしてしまう事案もある。

 しかし、養育費は各親の収入に応じた分担能力に応じて定められるものなので、たとえ養育費の額を公正証書で定めても、年収から見て高めの養育費を支払っている義務者が養育費の減額を請求する調停・審判を申し立てれば、最終的には、減額の結果となる可能性が高い。

「それを知っていれば慰謝料や財産分与を請求していた。」として改めて慰謝料や財産分与の請求をすることは立証面で極めて困難であり、そのような事案では、慰謝料や財産分与を得られないまま養育費の減額を受け入れざるを得ないことが大半だと思われる。
このように、適切な時点で弁護士のアドバイスが一言でもあれば確実に違った結果となったと思われる事案は多々存在する。

そして、残念なことに、そのような事案の当事者からは、「その時には弁護士に相談する事など考えもしなかった。」「その時には弁護士を探して相談するような余裕は無かった。」という声を聞く。
もう少し気軽に、弁護士に相談してもらうためにはどうしたらよいのか。考えさせられる。(A・S)