中部経済新聞2010年8月掲載
【聞之助ダイアリー】
保育所待機児童解消政策に潜むリスク

 昨今、自らのキャリアを維持するために産後間もなく職場復帰する女性が増えたことや、経済状況の悪化から共働き世帯が増えたことなどに伴い、保育所に子どもを預けて働く親の数が激増している。これにより、認可保育所に入れずに、定員空きを待ついわゆる待機児童(出生後2か月から小学校入学までの乳幼児)の数はこの近年増え続けている。 このような事態を受け、今年の4月、厚生労働省は、認可保育所の設置基準を緩和する方針を明らかにした。具体的には、園児1人あたりに確保されるべき居室面積の基準や保育士の配置基準の緩和が検討されているという。

 これによって、従来は認可保育所としての基準を充たさなかった施設が、今後は認可保育所として続々と誕生しうることになる。

 さて、この待機児童解消策。昨今マスコミでも頻繁に取上げられ、待機児童の数に愕然としていた親たちにとっては、一見歓迎されるべきように映るかもしれない。

 しかし、もし、子どもの命を託す保育所において、毎年一定数の子どもの死亡事故が発生し、これが今回のような保育所施設基準の緩和と無関係ではないかもしれないと知ったらどうだろう。

 この点、保育施設などで急死した子どもの遺族、弁護士らで組織される「赤ちゃんの急死を考える会」の調査によると、1962年から2000年までの約40年間で15件だった認可保育所での死亡事故が、2001年以降のわずか8年間で22件と大幅に増加している。同年は、やはり待機児童対策として同基準が緩和された年であった。同会は、基準緩和は、保育環境・保育の質の悪化をもたらし、保育事故の増加につながるとして、今回の基準緩和の動きに警鐘を鳴らす。

 確かに、基準の安易な緩和が、保育の質の低下をもたらし、保育事故増加のリスクを生む可能性は一般論としても否定できないだろう。

もっとも、親たちが、このようなリスクに気づくのは、実際に子どもを保育所に預け、その実態を目の当たりにしてからかもしれない。そして、このようなリスクを最終的に負わされるのは、緩和された環境基準のなかで、一日の大半を過ごす幼い子ども達である。

 未来を担う子ども達を社会が大切に育むという発想がこの国にもあるのなら、政府は、質を下げて定員枠を増やすなどという安上がりな方法でなく、きちんと予算を手当てし、従来の基準を充たす認可保育所の増設を図る等保育の質を低下させない形でこの問題を解決すべきである。