裁判所から、一枚のファックスが届いた。「・・・までに文書を提出していただくことになっておりますので、できるだけ速やかに・・・」と書かれている。書面提出の催促だ。提出期限が迫っていることくらい分かっている。今週は急な仕事が入ってしまったし、(ボス弁から雑用を言いつかったし)・・・と、ブツブツつぶやきながら、ふと、裁判所で修習していた頃のことを思い出した。
一年半前、私は、名古屋地裁民事部で司法修習をしていた。修習中、私が民事裁判を傍聴して抱いた印象は、とにかく弁護士は忙しい、ということであった。例えば、裁判では、最後に、裁判官と双方代理人(弁護士)が、手帳を見ながら次回の裁判の期日(裁判が開かれる日時)を決めていく。通常、一ヶ月程度先の日時を調整するのであるが、なかなか代理人同士の予定が合わないこともある。一ヶ月も先の予定が既に詰まっていることに、驚いたものである。
また、次回までに書面提出予定の代理人(弁護士)が、「もう少し時間をいただきたい」と申し出て、次回の期日との間が一ヶ月以上開く場合もある。書面を一通作成するのに、一ヶ月もかかるのかと、これもまた驚いたものである。
このように、修習生であった私の目には、弁護士は大変忙しいと映ったのであるが、その反面、忙しいのを言い訳にして、のんびり書面を作成しているのでは?と疑う気持ちもあった。そして、自分が弁護士になったら、期日が終わった後、記憶が新鮮なうちに一気に書面を書いて、一週間以内には提出しよう、と、密かに意気込んだものである。
書面は期日後一週間以内に提出!という私の意気込みは、その後、脆くも崩れ去った。なぜか。
大きな理由の一つは、書面が完成するまでには、様々な過程を経なければならないということだ。具体的には、依頼者との打合せ、証拠の取り寄せ、文献調査等である。また、いざ書面を書き始めてから、様々な疑問が沸いてくることもある。そうなると、疑問を解消すべく、依頼者から再度、事情を聴取したり、文献を調べたりすることになる。依頼者が会社であれば、社内の決済をいただくのに時間を要する場合もある。その間、他の事件や緊急案件への対応もある。こうして、ようやく書面は完成するのである。
修習時代には分からなかった事情があるのだと思う一方で、期限厳守を心がけようと奮闘する今日この頃である。(Y・N)