中部経済新聞2009年9月掲載
成年後見制度について
 このあいだ、田舎で一人暮らしをしている母から電話があったんだけど、ちょっと気がかりな内容でね。相談にのってもらえるかな。
 お母様は、どういったお話をされたのですか。
 どうやら、ご近所にリフォーム詐欺に遭ってしまった一人暮らしのご老人がいるらしくてね。その話を耳にした母が、今は大丈夫だけど、私もいつか認知症になって、悪い業者に騙されてしまうかも知れない、財産を取り上げられたらどうしよう、なんて言うんだよね。
 なるほど。身近でそのような事件が起こると、お母様もご不安でしょうね。
 母とは離れて暮らしているものだから、私も心配でね。何か良い方法はないものだろうか。
 そういうことでしたら、成年後見制度の利用を検討されてはいかがでしょうか。
 成年後見か、聞いたことはあるなあ。確か、本人に代わって、後見人に財産の管理などをしてもらう制度だよね。でも、私が聞いた話だと、成年後見は、認知症などで判断能力が低下してしまっている人が利用する制度だということだったけど。母はまだまだ元気だし、しっかりしているから、成年後見を利用することはできないんじゃないかな。
 たしかに、成年後見制度のうち、法定後見は、現に判断能力が不十分な状態にある方について、家庭裁判所が適任者を成年後見人として選任する制度です。しかし、法定後見とは別に、任意後見という制度があるのです。
 任意後見。それはどういった制度なんだろう。
 任意後見とは、十分な判断能力があるうちに、判断能力が低下してしまったときに備えて、信頼できる人との間で事前に任意後見契約を締結し、将来、その人に任意後見人になってもらうことと、行ってもらう事務の内容を決めておく制度です。その後、判断能力が低下してしまった場合には、契約で定めた人に、契約で定めた内容の事務を行ってもらうことになります。
 任意の契約による後見だから、任意後見というわけか。それでは、任意後見契約を締結するにはどうすればいいのかな。任意後見人になってもらう人と契約書を取り交わせばいいのかい。
 任意後見契約は、公証人が作成する公正証書によって締結しなければなりません。
 わざわざ公証役場に出かけなければならないのか。面倒なんだねえ。
 任意後見契約を締結するにあたっては、本人が契約の内容を理解しているかどうかを吟味し、適法かつ有効な契約が締結されるようにする必要がありますからね。そのために公証人が関与することになっているのです。それに、公証役場に出かけることが困難な場合には、公証人に自宅などまで出張してもらうこともできますよ。
 面倒だとも言っていられないのか。ところで、任意後見人には誰でもなれるのかな。それとも、何か資格が必要なのかい。
 法律上、任意後見人に資格制限はありませんから、弁護士や社会福祉士といった専門家はもちろん、親族や知人であっても任意後見人になれますよ。
 親族でもいいと言っても、私の手には余るだろうしなあ。他に適任者もいないし、やはり専門家にお願いするのがいいのかな。しかし、母には懇意にしている専門家はいないだろうし、どうやって候補者を探そうか。
 各地の相談窓口に問い合わせをされてはいかがでしょう。たとえば、愛知県弁護士会では、毎週火曜日と木曜日に、名古屋法律相談センターで高齢者・障害者相談を行っています。相談日には、052-252-0018の専用電話で電話相談も行っていますよ。
 そうやって専門家を探して、任意後見契約を結んだら、すぐにでも財産の管理などに取りかかってもらうことができるのかな。
 いいえ。任意後見契約の効力は、本人の判断能力が低下した段階で、任意後見受任者などから家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立て、任意後見監督人が選任されたときから発生します。ですから、直ちに財産の管理を始める必要がある場合には、任意後見契約とは別に、財産管理などを委託する内容の委任契約を締結しておく必要がありますね。この場合、判断能力が十分なうちは、委任契約に基づいて財産管理を行い、判断能力が不十分になった時点で任意後見に移行することになります。
 判断能力が低下してから、家庭裁判所に申し立てをしなければいけないのか。しかし、私のように離れて暮らしていると、本人の判断能力が低下していることに気付かないでいて、後見が始まらないなんてこともあるんじゃないかな。
 そういった事態を避けるためには、任意後見受任者との間で、月に一回本人と面会して、状況を確認するなどという内容の見守り契約を締結しておくと良いでしょうね。
 いざというときには、信頼できる任意後見人が財産を管理してくれるということになれば、母も安心するかな。敬老の日には、久しぶりに母に会いに行くから、そのときにでも話してみるよ。