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社長 |
前回の話で,民事再生がどういうものなのかは分かったけれど,債権者として,どのようなことに注意すればいいのかな。
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弁護士 |
まずは,再生手続に参加するために,裁判所に再生債権の届出をしておく必要があります。債権届出期間内に届出をしないと,債権が失権することにもなりかねませんからね。そして,前回もお話ししたように,債権者としては,再生計画案を十分に吟味して,再生計画案の決議において,賛否について,適切に議決権を行使することが大切です。
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社長 |
この間の例えで言うと,競走馬に飼い葉を与えてレースに出すのか,つぶして桜肉と太鼓の皮にしてしまうのかを判断しろというわけだね。
しかし,再生計画案を十分に吟味して,と言われてもなあ。どうやって判断したらいいのだろう。
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弁護士 |
適切な判断をするためには,十分な情報収集が必要です。再生手続の中で,再生債務者の経営状況などをチェックする必要があります。
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社長 |
たしかに,再生債務者の経営や損益の状況が分からないと,再生計画案に賛成するか,反対するかなんて決めようがないね。
それでは,再生債務者の経営や損益の状況を調べるには,どういった方法があるのかな。 |
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弁護士 |
再生債務者が作成した財産目録と貸借対照表を閲覧,謄写するという方法があります。再生手続の開始決定があると,再生債務者は,一切の財産について,再生手続開始決定時点での価格を評定して,財産目録と貸借対照表を作成し,裁判所に提出するのですが,債権者は,裁判所に出向いて,これらの書類を閲覧,謄写することができます。また,これらの書類は,再生債務者の主たる営業所または事務所にも備え置かれますので,そちらで閲覧することもできます。
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社長 |
財産目録と貸借対照表からは,何を読みとることができるのだろう。
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弁護士 |
これらの書類は,処分予定価格によって財産を評定して作成されていますから,再生債務者を再生させずに清算した場合,どの程度の配当が行われるかを予想することができますよ。
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社長 |
なるほど。しかし,それだけの情報を元に判断するのは難しいね。再生が可能かどうかを見極めるためには,倒産の原因や,経営の現状などについても知りたいところだなあ。
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弁護士 |
民事再生法は,再生債務者は,再生手続開始決定後遅滞なく,再生手続開始に至った事情や,再生債務者の業務及び財産に関する経過及び現状などを記載した報告書を裁判所に提出しなければならないと定めています。債権者は,裁判所に提出された報告書を閲覧,謄写することができますので,この報告書から,倒産の原因や,経営の現状についての情報を得ることができます。この報告書も,再生債務者の主たる営業所または事務所で閲覧することができますよ。
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社長 |
しかし,財産目録と貸借対照表にしても,報告書にしても,裁判所に出向いて閲覧,謄写したり,再生債務者の営業所や事務所に出かけて閲覧したりしないといけないのか。こういった情報については,再生債務者から説明があってしかるべきだと思うけど。
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弁護士 |
民事再生規則では,再生債務者は,債権者説明会を開催することができ,債権者説明会では,再生債務者の業務及び財産に関する状況などについて説明するものとされています。多くの場合,再生手続が申し立てられた直後に債権者説明会が開催され,再生債務者から説明が行われています。
また,財産状況を報告するための債権者集会が開催され,報告書の要旨が説明されることもありますが,これは例外的なケースですね。ただ,裁判所に提出した報告書について,再生債務者は,その内容を債権者に積極的に周知させる義務を負っています。そのために,債権者に対して,報告書の要旨を記載した書面が送付されることもありますし,再生計画案の決議の前に,あらためて債権者説明会が開催され,報告書の内容について質疑応答が行われることも多いようです。債権者説明会が開催される場合には,なるべく出席するようにして情報収集に努めるといいですね。
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社長 |
再生債務者から説明をすることもあるのだね。情報を収集する手段はいろいろあるわけだ。しかし,のんきに情報を集めている場合じゃない,支払を受けないと,こちらも連鎖倒産してしまうという事態も考えられるよね。そんなときでも,再生計画が確定するまでは,情報を集めながら待つしかないのかな。
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弁護士 |
再生債務者を主要な取引先とする中小企業が,再生債権の弁済を受けなければ,事業の継続に著しい支障を来すおそれがあるときは,裁判所は,再生計画の確定前であっても,再生債権の弁済を許可することができるとされています。連鎖倒産のおそれがあるような場合には,この制度の利用を検討されると良いと思いますよ。
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社長 |
そんな方法があるのか。取引先が民事再生を申し立てたからといって,諦めるのはまだ早いわけだ。制度を利用する必要があるようなときには,また相談させてもらうよ。
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