法律事務所の窓辺から

学校で学べない”能力”



私は,司法試験の受験予備校で勉強を始め,その後法科大学院を経て新司法試験に合格し,弁護士になった。弁護士になって1年が経過した今,法科大学院で学んだことが自分の仕事にどう活きているのか,また,法科大学院では学べず,弁護士になった今直面している問題はどんなことかについて述べてみようと思う。

予備校では,司法試験で使う論証のパターンをたくさん覚え,司法試験でなるべく時間をかけずに書けるようにするというような,知識詰め込み型の勉強方法が行われていた。予備校のこのような勉強方法は当時から批判されていたため,私は法律の原理原則から論理的に考えることを意識して勉強していたつもりであったが,法科大学院に入学してそれが全くできていないことを思い知らされた。

法科大学院では,予備校で学んだ論証パターンを使って容易に解答できるというような課題は出されず,法律の原理原則に遡って一生懸命考えなければ解答できない課題が多く出された。私は,特に弁護士等の実務家教員から,自分で考えて,自分なりの結論を出すということを繰り返し教わった。このような勉強は予備校ではできなかったことである。

私は,弁護士になって1年間仕事をしてきたが,依頼者からの相談で容易に回答できるというようなものは少なく,自分の頭で考えて一定の結論を出さなければならないものが多くあった。このような問題に直面した際,法科大学院で学んだ,法律の原理原則に遡って一生懸命自分で考え,自分なりの結論を出すという姿勢は非常に役立っている。

しかし,法科大学院でも学ぶことができず,弁護士になって初めて直面している問題もある。それは,依頼者の相談に回答するために,依頼者から必要十分な情報を聞き出したり,必要な資料を収集したりするということである。

法科大学院では,与えられた資料,設定された当事者の言い分や要求を前提に,問題を解決するためにはどのような法的手段が可能かを問われる問題が出された。しかし,実務では,依頼者が何を望んでいるのか理解する能力,依頼者の言い分が法的に認められるか否かを判断する前提として必要な事実を聴取する能力,必要な資料を収集する能力など,法的手段を検討する前提になる能力が必要とされる。かかる能力は,実務に出なければ身につけられない能力であると思う。

私は,一歩一歩着実に弁護士として必要な能力を身につけていきたいと思う。

以上