従業員の解雇について
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社長
今日は解雇の問題について教えてくれないかな。景気が悪いから従業員を解雇しなきゃならない時が来るかもしれないと思ってね。この機会に解雇全体についてわかりやすく説明して欲しいんだよ。
弁護士
わかりました。まず解雇とは、使用者からの一方的な意思表示によって労働契約を解消することをいいます。大きく分けると普通解雇と懲戒解雇に分けられます。普通解雇には労働者側に責任のある理由によって解雇する狭義の普通解雇と、労働者側に責任はなく専ら使用者側の経営上の理由によって解雇する整理解雇があります。次に懲戒解雇とは、懲戒処分の一種で横領や営業秘密の漏洩など重大な企業秩序違反に対する制裁として解雇することです。今回のご相談からすると普通解雇の問題ですね。
社長
さっきの説明だと、普通解雇は二つに分けられる様だけど、狭義の普通解雇って具体的にはどういう場合なの?
弁護士
労働者に勤務態度不良や能力不足、健康不良などの理由がある場合です。社長の会社でも就業規則に従業員の能力、健康、勤務態度等に関する普通解雇事由が定められているでしょう。
社長
ああ、そういう規定があったかな。じゃあ就業規則に定めている普通解雇事由があれば解雇は有効だよね。
弁護士
いいえ、普通解雇事由があるからといって常に解雇し得るものではありません。労働契約法16条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定しています。
いわゆる「解雇権濫用の法理」です。
社長
ふ〜ん。でも解雇が社会通念上相当かどうかはどうやって判断されるの?
弁護士
個々のケースごとに異なりますが、業務上の支障の程度や使用者が労働者に改善の機会を与えたかなど、様々な視点から総合的に判断されます。
また、解雇事由が認められるとしても解雇する際の労基法上の規制や手続が守られていることも必要です。
社長
労基法上の規制や手続って何のこと?
弁護士
解雇する場合、使用者は、少なくとも三十日前に解雇の予告をしなければなりません。また、三十日前に解雇の予告をしない場合には、解雇予告手当といわれる三十日分以上の平均賃金を支払わなければなりません。このような手続を解雇予告手続といいます。
社長
解雇予告手続は必ず必要なの?
弁護士
天災その他やむを得ない理由で事業の継続が不可能となった場合と労働者の責めに帰すべき理由で解雇する場合には不要とされていますが、その場合は労働基準監督署の認定を受ける必要があります。
社長
次に整理解雇についても説明してよ。
弁護士
はい、整理解雇が認められるかどうかは、主に@整理解雇を行う必要性A整理解雇を回避する可能性、回避の努力の有無B解雇対象者の選定基準の合理性と公正な適用C手続の妥当性という視点から判断されます。
社長
@整理解雇の必要性が認められるのは具体的にどういう場合なの?
弁護士
@整理解雇の必要性は各会社の規模や実情に応じて判断されますので一概には言えませんね。ただ、整理解雇の後に大幅な賃上げや多数の新規採用を行うことを予定しているような場合には@整理解雇の必要性は認められないでしょう。
社長
じゃあA整理解雇を回避する可能性、回避の努力の有無とはどういう意味?
弁護士
例えば、配転、出向、一時帰休、希望退職の募集などの手段によって整理解雇を回避できる可能性がなかったか、また会社が整理解雇を回避する努力を試みたかということです。やはり解雇は最終手段ですから、努力してもどうしようもない場合にだけ認められるのです。
社長
使用者側もできることなら整理解雇なんてしたくないからね。B解雇対象者の選定基準の合理性と公正な適用とはどういう意味?
弁護士
複数いる従業員の中から当該従業員を解雇の対象として選ぶのですから、その従業員を選んだことの合理性が求められます。解雇者の選定について客観的で合理的な基準を設定し、これを公正に適用して行うことが必要です。
社長
最後のC手続きの妥当性の意味は?
弁護士
C手続きの妥当性とは、解雇の必要性や解雇の基準などについて従業員に対して十分な説明をして協議がつくされているか、従業員の納得を得るための手順をきちんと踏んでいるかどうかという意味です。整理解雇の場合も先ほど説明した解雇予告手続が必要となりますのでお忘れなく。
社長
へぇ、会社の経営状態が悪いのだから、すぐに解雇できると思っていたけど色々問題があるんだなぁ。
弁護士
ええ、解雇は労働者にとって生活の基盤にかかわる重要な問題ですから慎重に判断されるんですよ。解雇の有効性はケースごとに微妙な判断が必要となりますし、今日お話しできなかった解雇の要件や規制もありますので、改めて弁護士に相談してくださいね。
社長
そうするよ。もし解雇の問題で従業員と紛争になったら解決のためにどういう手続があるのかな?
弁護士
行政による紛争解決手続としては、都道府県労働局の紛争調整委員会によるあっせん、都道府県労働委員会による個別労働紛争のあっせんなどがあります。司法での紛争解決手続としては、通常の訴訟の他に、裁判官一名と労働審判員二名から構成される労働審判委員会による労働審判手続がありますよ。
社長
労働審判って訴訟よりも迅速に解決するというふれこみで始まった制度だよね。実際始まってみてどんな状況なんだい?
弁護士
労働審判手続には調停が組み込まれていますが、調停成立による解決が全体の約七割だそうですので実効的な解決がされていると言えるのではないでしょうか。
社長
今日は勉強になったよ。また何か具体的な問題が起きたときにはすぐに相談するからよろしく。