新司法試験の合格率が一年目は五〇%台、二年目は四〇%台、そして三年目の今年は三〇%台と年々合格率が低くなっている。このことをとらえて、法曹人口の増加の要請に逆行している、というのが大部分の新聞の論調である。しかしこの新聞の論調は、司法試験が法曹資格を付与する試験であるという本質を理解していない。
まず、何故、合格率が低下してきたか。
平成一八年は受験者が二〇九一人、合格者が一〇〇九人、平成一九年は受験者が四六〇七人、合格者が一八五一人、平成二〇年は受験者が六二六一人、合格者が二〇六五人である。受験者数が増加したものの、合格者数が、受験者数の増加に比例して増加していないから、合格率が下がってきているのである。
それでは、何故、受験者数の増加に比例して合格者数も増加させないのか。
試験の合否の決め方には二種類ある。一つは、合格定員枠があって、成績上位者から順に定員枠までの成績の者を合格させる方法。典型例は大学の入学試験。もう一つは、合格者の質を考慮し、試験で試される能力について一定のレベルに達しているか否かで合否を判定する方法である。医師の資格を付与する国家試験がその典型例。
新司法試験制度発足と同時に、司法試験の合格者を段階的に増やして、最終的には三〇〇〇人にするという数値目標が閣議決定された。三〇〇〇人という合格枠を設定して法曹人口を増加させるとなると、司法試験は、大学入試のように、合格定員枠があって成績上位者から順に定員枠までの成績の者を合格させるということになりかねない。
しかし、司法試験は法曹資格を付与する試験であるから、医師の国家試験に近い性質を有しており、司法試験の合否は、要求される合格基準にその受験者が達しているか否かで判定すべきである。いかに法曹人口の増員の要請があろうとも、司法試験が法曹資格を付与する試験という性質に変わりはないはずだ。だから合否の判定も、法曹の卵として要求される合格基準に達しているか否かでなされなければならない。
今年の合格者の数値目標は二一〇〇人〜二四〇〇人とされていた。これに対し、司法試験委員会は合格者を二〇六五人とし、数値目標よりも少ない合格者数とした。これは、司法試験委員会が合格者の質の維持を重視する態度を示したものと評価できる。