パワハラの法的責任〜行き過ぎた指導は違法


先月、自衛官が上司の言動によって自殺に至ったとして、国に損害賠償を命じる判決(福岡高裁)が出ました。最近、この事件のように職場における上司の行き過ぎた言動や嫌がらせにより、部下が精神的に追いつめられてしまうという事例が問題になっています。いわゆる「パワーハラスメント」(パワハラ)と呼ばれる問題です。上司や先輩の嫌がらせ、行き過ぎた言動により、従業員が肉体的精神的に傷つけられた場合、加害者はもちろん、事業主も、使用者責任や職場環境配慮義務違反等により損害賠償その他の法的責任が問われ得ます。

過去に加害者や事業主の責任が問われた裁判例としては、リストラ策の一環として執拗に退職勧奨を繰り返したり退職に応じなかった社員に対し嫌がらせをしたという事例や、社員の組合活動や思想信条を嫌忌して活動の妨害や嫌がらせを行ったという事例、先輩が後輩に悪口や嘲笑を繰り返したり、地位や権力を利用して私用を命じたという事例などがあります。

また、見極めの難しいケースとして、パワハラが上司の業務命令や指揮監督の一環としてなされる場合があります。上司には部下に業務命令を下したり指揮監督をする権限も義務もありますから、上司としては、部下の仕事がはかどらなければハッパをかけるでしょうし、ミスに対しては叱咤するでしょう。

しかし、業務命令や指揮監督だからと言って、どんな言動をしてもよいというわけではありません。例えば、他の従業員の前で「会社を食いものにしている、給料泥棒だ」「存在が目障りだ」などと侮辱的な表現で繰り返し怒鳴られてしまうと、部下は人格や尊厳を傷つけられ精神的に相当なダメージを受けてしまいます。たとえ業務命令や指揮監督として行った行為でも、行為のなされた状況、行為の態様や反復継続性、上司の意図、部下の対応、両者の関係等に照らして社会通念上不相当と判断される場合には、業務命令や指導監督の域を越えた違法な行為と判断されますので、注意が必要です。

また、最近は、冒頭で紹介した自衛官の事件のように、上司の言動により部下が強いストレスを感じ、うつ病などの精神障害を発病し長期間の治療を要したり、死に至ってしまうという深刻なケースも起きています。事態が深刻になってしまう前に、従業員の心身に変調がないか留意して適切に対処することが、事業主には求められています。