前回のお話ですと,被告人が自白したからといって必ずしも犯人とは限らないとのことでしたよね。やってもいない犯罪をやったと言う人は本当にいるのですか。
いますよ。特に問題なのは,捜査機関による過酷な取調べに耐えられず,虚偽の自白をしてしまった場合です。逮捕・勾留されると,社会から長期間隔離されたまま,密室の取調室で何時間も取調べが行われ,取調官にいくら自分の言い分を述べても頭ごなしに否定され,あの手この手で自白するように迫られます。これが毎日続くとなると,裁判になれば真実は明らかになると思ったり,あるいは,何を言っても無駄だと絶望し,虚偽の自白をしてしまうことが現実にあります。
虚偽の自白で冤(えん)罪ということもあるのですよね。裁判員制度で,我々素人に見抜けますかね。
今の制度では,プロ・素人関係なく,見抜くのは難しいです。 新聞でも報道されましたが,昨年の一月に真犯人がでてきて強姦等の罪につき冤罪が発覚した富山の氷見事件では,プロである裁判官,検察官,弁護人の誰も虚偽自白に気付けませんでした。 また,昨年二月には,親族の名前を書いた紙を踏ませる(踏み字)などの手法で自白を強要した事件(鹿児島志布志事件)がありました。この事件では,裁判の結果,自白は信用できないと認定されたものの,不適切な取調べがあったことを明らかにするために,約三年半、五四回の審理が必要となりました。
どうして,見抜くのが難しかったり,時間がかかったりするのですか。
さすが社長,よくご存知ですね。密室での取調べが,多数の虚偽自白,冤罪事件の温床となっていることは間違いありません。 取調べの様子を録画,録音し,後から取調べの態様が客観的に分かるようにすれば(可視化),自白を強要するような取調べがあったかどうか,水掛け論にはならず,判断が容易になりますし,捜査機関に強圧的な取調べをさせない抑止力にもなります。そこで我々は取調べの全過程を可視化するよう求めているのです。
取調べの「全過程」の可視化と言ったけれども,新聞では,検察庁等で取調べを一部録画すると報道されていましたよ。
どうして検察庁等は一部しか録画しないという方針なのですか。
日本の捜査機関も政府も,取調べを録画,録音すると,真相解明に必要な自白が得られなくなるなどと言って,もともと,取調べの可視化に消極的なのです。
可視化すると真相解明に必要な自白が得られなくなるようなことはあるのですか。