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社長 |
いよいよ一年後に裁判員制度が始まりますね。 |
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弁護士 |
そうですね。我々弁護士も,裁判員に理解しやすい弁護を行えるように,弁護士会で,市民の皆さんと一緒に模擬裁判を開いたり,研修を行ったり,準備をしていますよ。
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社長 |
そうですか。私は今ひとつ実感が湧かないのですが,私個人だけでなく,会社にも関係ある話なのですよね。 |
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弁護士 |
そうですね。社長はもちろん,社員が選ばれたことも想定しておく必要がありますね。社員の方が裁判員の仕事をするために必要な休みを取ることは法律上認められています。社長や社員が裁判員の仕事で休んだ場合,会社の仕事に影響がでない体制を予め作っておく必要がありますし,裁判員の仕事で社員が休んだ場合,会社として有給休暇扱いにするかも検討しておくべきでしょうね。念のため言いますと,裁判員として仕事を休んだことを理由に,解雇などの不利益な扱いをすることは法律で禁止されていますよ。
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社長 |
あはは,そんなことはしませんよ。裁判員の仕事は国民の義務を果たすということで,会社としても応援しますし,有給休暇扱いにしたいと思います。
ところで,裁判員はどのように選ばれるのですか。 |
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弁護士 |
裁判員は,衆議院議員選挙の有権者から選ばれます。まず,選挙人名簿から,向こう一年間の裁判員候補者を無作為に選び,裁判員候補者名簿を作成します。名簿に記載された場合は,通知がありますよ。通知に際しては,就職禁止事由や客観的な辞退事由に該当しているかどうかなどをたずねる調査票も送付されてきます。 |
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社長 |
その通知を受けた人は,その後,一年間裁判員になる可能性があると覚悟しなければならないのですね。 |
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弁護士 |
そうですね。来年の名簿記載通知は,今年の十一月以降に送付される予定ですよ。
次に,個別の事件での選任手続きですが,裁判員制度の対象事件につき,最初に法廷が開かれる日(第一回公判期日)が決まると,その名簿の中から,無作為抽出により,通常五〇人程度,その事件の裁判員候補者が選ばれます。選ばれた方には,原則として第一回公判期日の六週間前には呼出状と,併せて,具体的な辞退事由の調査をする質問票が送付されてきます。質問票に対する回答で辞退事由が認められれば,呼出状は取り消されますので,裁判所には行く必要はなくなります。なお,この裁判員候補者となる確率は,全国で一年あたり,約三三〇〜六六〇人に一人と試算されています。
そして選ばれた裁判員候補者は,呼出状にて,指定された日時に裁判所に出頭することになります。通常,第一回公判期日の午前中に指定されると思われますが,そこで,裁判員選任手続きが行われ,裁判員候補者の中から,原則として六人,その事件の裁判員が選ばれます。この選任手続きは非公開で行われ,裁判官から,裁判員になることのできない事由がないか,質問がなされ,その上で,最終的にはくじで選任されます。
裁判員が選任されるまで
- 前年の秋頃
- 各地方裁判所にて,裁判員候補者名簿作成。
↓
- 前年12月頃まで
- 調査票とともに候補者に通知。
↓
- 個々の事件が裁判所に係属
- 事件ごとに裁判員候補者名簿の中から,
通常,1事件あたり50人から100人
の裁判員候補者をくじで選ぶ。
↓
- 原則,裁判の6週間前まで
- 質問票とともに,選任手続期日の
お知らせ(呼出状)を送付。
↓
- 裁判の当日(通常,午前中)
- 裁判所にて,裁判員選任手続期日が開かれる。
裁判員になることができない事由がないか,
辞退希望のある場合の理由などにつき調査。
↓
- 最終的にくじで6人の裁判員を選任
(必要な場合は補充裁判官も選任)。
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社長 |
なるほど。裁判員になることを辞退することはできないのですか。 |
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弁護士 |
裁判員は,原則として辞退できません。ただ,例外として,七〇歳以上の人や,一定のやむを得ない理由があって,裁判員の職務を行うことや裁判所に行くことが困難な人などは辞退できると法律に規定されています。現在,この一定のやむを得ない理由はどのようなものか,類型化する作業がなされています。 |
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社長 |
わかりました。では実際に裁判員になった場合はどのようなことをするのですか。 |
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弁護士 |
裁判官と一緒に壇上の席に座り,刑事事件の法廷(公判)に立ち会い,判決まで関与することになります。
まず,公判では,証拠書類を取り調べるほか,証人や被告人に対する質問を行います。裁判員も証人等に質問することができますので,疑問な点があれば質問して下さい。
そして,その後,証拠を全て調べたら,今度は,事実を認定し,被告人が有罪か無罪か,有罪だとしたらどんな刑にするべきかを,裁判官と一緒に議論し(評議),決定する(評決)ことになります。
評議を尽くしても,意見の全員一致が得られなかったとき,評決は,多数決により行われます。有罪か無罪か,有罪の場合の刑に関する裁判員の意見は,裁判官と同じ重みを持ちます。ただし,裁判員だけによる意見では,被告人に不利な判断(被告人が有罪か無罪かの評決の場面では,有罪の判断)をすることはできず,裁判官一人以上が多数意見に賛成していることが必要です。
評決内容が決まると,法廷で裁判長が判決を宣告することになります。
裁判員としての役割は,判決の宣告により終了します。 |
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社長 |
大変な仕事ですね。どれくらいの日数でこの仕事をするのですか。 |
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弁護士 |
公判期間は,できるだけ連日開かれ集中した審理を行う予定で,約七割の事件が三日以内で終わると見込まれています。 |
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社長 |
わずか三日で判断することなどできるのですかね。長くかかるのも困るけれども。
ところで,どんな事件が対象になるのですか。 |
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弁護士 |
一定の重大な犯罪ですが,代表的な例をあげると, 殺人罪や強盗致死傷罪,傷害致死罪,また,最近,新聞等で大きく取り上げられているひどく酒に酔った状態で自動車を運転して人をひき,死亡させた場合(危険運転致死)などがあります。 |
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社長 |
重い事件ばかりですね。そんな犯人を裁くのはなんだか怖いですよ。 |
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弁護士 |
社長,だめですよ。まだその被告人が犯人かどうかわからないのですから。その被告人が合理的な疑問を残さないまでに犯人といえるか,それを裁判員制度で審理するのですからね。 |
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社長 |
そうか,「無罪の推定」ですね。先入観なく,公判に臨まないとだめですね。でも自白している場合は犯人で間違いないじゃないですか。 |
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弁護士 |
そう単純でもないのですよ。そのことについては次回お話しますね。 |