私の事務所の業務時間は、午前九時から午後七時頃までであるが、私自身は、余程の深酒をしない限り午前八時には事務所に出ている。この時間には、さすがに事務員は出勤しておらず、自分でコーヒーを入れ、時には自宅で取り損ねた朝食のため、コンビニで買ったサンドウィッチとヨーグルトを食べながら、メールチェックや、当日の連絡先の確認、あるいは書面の作成などを行っている。
午前九時過ぎからは、たちまち入ってくる電話の応対に追われ、自分の仕事は分断されてしまう。法廷がある時には午前一〇時前には事務所を出て、早くても一〇時三〇分、遅いと一二時頃に事務所に戻る。法廷がない日でも、大抵は打合せを入れている。不在の間に電話連絡が集中していると、昼休みでも、こちらから折り返し電話を入れることもある。電話の相手の多くは携帯電話の番号を伝えてあるので、昔のように電話の昼休みがない。
午後も同じようなもので、法廷あるいは弁護士会の委員会で事務所を不在にしたり、事務所にいても打合せをして自分の机にいないことが大半である。
自分の机でゆっくりできるのは、午後五時過ぎだが、そこからまた電話での応対が延々と続き、午後七時くらいに終了する。最近は左肩が慢性的に肩凝りになっている。
受話器を置いて、ようやく一息つける。それからまた書面作成にとりかかる。そうこうする内に午後九時頃になっている。
私は、弁護士として二〇年が経過したが、ここ一〇年はこのような執務サイクルの毎日である。
一般に法律事務といえば、味も素っ気もない理屈優先の無味乾燥な仕事のように思われがちである。しかし、実際の事件は、例えば離婚事件と一口で言っても、当事者毎に事件の個性があり、一括りにすることはできない。そもそも私たちのところにたどり着く依頼者はそれぞれ違った問題を抱えている。個々の事件の背景を知るために、一件ずつ依頼者に事情を尋ねることになり、それに費やされる時間は莫大なものとなる。依頼者は必ずしもこちらの欲しい情報だけに限定せずに話をするので、その整理も大変だ。しかし、忙しさにかまけて、肝心の事情の聞き取りを疎かにすれば、事件の全体像を把握し損ね、解決の方向性を見誤ることになる。その結果、依頼者の信頼を失うことにもなりかねない。
確かに事件は迅速に解決されることが望ましい。しかし、弁護士の仕事の基本は、個々の事件について地道な手作業の積み重ねである。慌ただしい日々ではあるが、打合せや電話応対を疎かにすることはできない。時代が変わったとしても、弁護士が社会から信頼を受け続けるための基本には何ら変わりがないものと確信している。