事業承継は「転ばぬ先の杖」


一 事業承継とは
いわゆる団塊の世代から世代交代の時代を迎え、事業の代表権などを次の世代に承継する必要のある会社が多くみられます。
円滑に事業を承継するにはどうしたらいいか、それが事業承継の問題です。
二 事業承継を検討する重要性
「事業承継」をきちんとやらなければ、場合によっては@相続税などで多大な課税対象となり、その支払いのために後継者が事業用資産を手放さなくてはならなくなったり、A相続人間で遺産分割や事業の実権をめぐってトラブルが起きたりする可能性があります。また、B後継者に関して社内での理解が得られないことにより、経営が安定しない結果になることもあり得ます。C最悪の場合、廃業にもなりかねないのです。
事業承継は、決して個人的な問題ではなく、企業の存続のために重要な課題なのです。
そのような必要性から、中小企業庁等を中心として事業承継協議会が設置されました。
また、愛知県弁護士会でも、このような流れに対応し、事業承継問題に取り組んでいます。
事業承継のために行っておくべきことは以下に述べますが、その殆どが事前に行う必要があるものです。ある制度を利用しようと思っても、その思ったときに利用できるとは限りません。「まだ大丈夫」と思っていても、早めの検討や対策が必要なのです。
三 事業承継のパターン
事業承継のパターンとしては、大きく@親族内承継、A従業員等への承継、B社外への承継(M&A)の3パターンがあります。今回は、@親族内承継についてお話しします。

【親族内承継】

親族たる後継者に事業を承継させる場合(親族内承継)に検討しなくてはならないことの概略を説明します。
@ 関係者の理解
関係者の理解を得ることは重要な課題です。すなわち、@後継者候補との意思疎通を図り、A社内や取引先・金融機関への事業承継計画の公表をするとともに、B将来の経営陣の構成を視野に入れて、役員・従業員の世代交代を準備する必要があるのです。
これらの点についても、弁護士がこれまで各種案件を扱ってきた経験に基づき、様々なアドバイスが可能な分野です。
A 後継者教育
研修や指導、現場経験などの社内・社外での教育のほか、一定の適切な時期に後継者を責任ある地位に就けて権限を委譲していくことも重要です。
B 株式・財産の分配
@法律面の検討(新会社法の活用)
株式を後継者に承継させるために遺言や生前贈与などの方法選択をしたうえで、必要な手続を行います。
ただし、遺留分の関係上、他の相続人を無視した相続や贈与をすることには問題があります。すなわち、いくら遺言があっても、兄弟姉妹以外の相続人には遺留分として、最低限もらい受けることのできる分について請求する権利があるため、そのことをめぐって争いになることがあるのです。
他方で、形式的に平等な相続をさせれば、株式が分散し、後継者の経営権が不安定になる可能性があります。
そこで、(ア)議決権制限株式、(イ)拒否権付種類株式(黄金株)、(ウ)相続人に対する売渡請求など、会社法上の制度の活用も検討すべき場合があります。
  • (ア)議決権制限株式とは、株主総会での議決権の全部または一部を制限することができる株式で、これを非後継者である相続人に相続させることにより、後継者の議決権を安定させるという方法が考えられます。
  • (イ)拒否権付種類株式とは、株主総会の特定の決議事項について拒否権を有する株式で、例えば、公的資金が投入されている企業の経営を監視するために、政府がこの株式を保有したりするなどの利用例が考えられるもので、黄金株ともいわれています。これを利用して後継者が十分な議決権を保有できない場合でも、経営権を安定させることができます。
  • (ウ)株式を相続した者が会社にとって好ましくない者であった場合、定款で相続人に対する売渡請求の条項を定めておくことにより、会社が株式の売渡請求を行うことも可能です。
これらの方法のほかにも、それぞれの具体的な状況に従って活用すべき会社法の各種制度があります。
また、これらの制度を利用するには定款の変更など一定の手続を事前にしておく必要がありますので、利用したいと思ったときにすぐに利用できるわけでありません。
A税法面からの検討
相続時精算課税制度の活用など、税法面からの検討もしておく必要があります。
頑張って会社を成長させていけば、株式の評価はあがるため、将来相続するころになって相続税を課税されると税額は高くなる可能性があります。せっかく頑張って会社を成長させたのに、かえって税金の負担により経営が不安定になることがあり得るわけです。
そこで、計画的に株を生前贈与していく方法を検討すべきことになります。
これは、単なる節税対策ではなく、納税の負担により後継者が株式を手放さなくてはならないような結果を避けるためにも重要な問題です。