会社法における社外取締役の責任とは

先日、知り合いから、社外取締役になってもらえないかとの話がありました。ただ、会社の役員になると何か責任があると聞いたのですが、本当でしょうか。
そうですね。会社の役員には、会社に対する責任と、第三者に対する責任の両方があります。本来、取引先等の場合、会社と取引をしているので、会社に対してだけ請求ができるのが原則なのですが、一定の要件が認められるときには、役員が直接、第三者に責任を負う場合があります。


会社に対する責任はどういうものですか。

役員は、会社に対して、善良な管理者としての注意義務や、会社のために忠実に職務を行う義務を負っています。したがって、故意または過失によりこれらの義務に違反した場合には、損害賠償責任を負うことになります(過失責任)。


私の場合、社外取締役であって、具体的な行為を行うわけでもありませんので、責任は問題にならないのですよね。

そんなことはありませんよ。取締役の善管注意義務には、自分の業務執行行為だけでなく、他の取締役に対する監督(監視)義務がありますので、たとえ、自ら行っておらず、また、取締役会で問題にされなかった行為でも、監督義務違反があるとして責任が追及されることもあります。そのため、内部統制システムを整備しておかないと、監督義務を尽くしていないと評価される場合もあります。



そうすると、社外取締役であっても、莫大な損害を請求される危険があり、問題となる行為については、意見を言ってやめてもらわないといけないのですね。簡単に引き受けることはできないですね。
でも、会社に対する責任は、総株主の同意があれば、免除を受けることができます。


しかし、株主が多いと現実には免除を受けられないですね。
そうなりますね。ただ、その取締役の職務懈怠が、悪意でなく、重大な過失もない場合には、株主総会の特別決議で責任の一部免除をすることができます。大雑把にいいますと、代表取締役の場合ですと、報酬の6年分を超える部分の免除を受けることができ、それ以外の取締役(社外取締役以外)は4年分、社外取締役、監査役の場合は2年分となっています(最低責任限度額)。なお、監査役設置会社(取締役2人以上の場合に限る)では、株主総会の特別決議にかえて、取締役会の決議によって、一部免除ができる旨を定款で定めることもできます。しかも、社外取締役(社外監査役等も)の責任については、定款で定めた範囲内であらかじめ定めた額と、最低責任限度額のどちらか高い方を限度として賠償責任を負う旨の契約(責任限定契約)を締結することもできます。


取締役の責任について、新法で特に変わったことはありますか。
一つは、取締役会決議に賛成した者は、その決議に基づいて行われた行為について、その行為をしたものとみなして責任を負うとの規定が排除された点があります。
それと、一番の特徴は、従来、無過失責任とされていたものも過失責任とされ、過失責任の原則が徹底されている点です。



具体的には何が変わったのですか。
取締役が自分や第三者のために会社と取引をしたり、会社が取締役の債務を保証したりするような利益相反行為の場合、従前は、無過失責任が課されていました。しかし新法では、自己のために会社と直接利益相反取引をした取締役を除いては、過失がなければ責任を負わないことにしました。
反面、従来は、総株主の議決権の3分の2以上の賛成で責任を免除することができましたが、新法ではそのような規定はなく、総株主の同意がないと免除されません。ただし、自己のために会社と直接に利益相反取引をした取締役以外については、株主総会の特別決議による一部免除は可能であります。


他に何か改正されたところはあるのですか。
株主の権利行使に関して違法な利益供与がなされた場合、従前は取締役会で賛成した取締役も含み、無過失責任が課せられていました。新法でも、利益供与に関与した取締役の責任は認められますが、当該利益供与をした取締役以外は、過失がなければ責任を負わないことになりました。


他に何かありますか。
いわゆる違法配当がなされた場合も、従来は、違法に配当された金額を弁済すべき無過失責任を負わされていました。この点、新法では、違法配当に関与した業務執行取締役等が、配当を受けた者とともに、連帯責任を負いますが、過失がなければ責任を負わないことになっています。


いろいろお聞きしていますと、新法では無過失責任はほとんどなく、過失がある場合に責任を負うとされており、責任が軽くなったと理解すればよいですか。
そうとばかりはいえません。まず、違法配当でも、確かに過失責任となったのですが、従前は、株主全員の同意で全額免除を受けられましたが、新法では、総株主の同意を得ても分配可能額の範囲でしか免除を受けられず、一部免除を認める規定もありません。しかも、社外取締役等の責任限定契約も認められません。そのため新法での剰余金の配当等の取締役の責任が、自己株式の有償取得等にも及ぶことを考えると、責任が軽くなったとはいえないと思います。
それに利益相反行為についても、従来総株主の議決権の3分の2以上で責任の免除を受けられたものが、総株主の同意が必要ということでも軽いとはいえません。


そうしますと、新法になって、特に、取締役の責任が軽減されたということではないのですね。
そうですね。しかも、責任の免除等が認められるのは、あくまで、会社に対する責任であって、職務を行うにあたり、悪意または重大な過失が認められると、直接、第三者に責任を負う場合もありますので、注意してください。


社外取締役になるかどうかは、もう一度、よく考えることにします。