公益通報者保護法

 公益通報者保護法が本年4月1日から施行された。各企業の関心も高くこれに関する弁護士への相談も増えている。しかし、実際に何をしたらいいのか戸惑っている事業者も多いようである。

 今日も社長が弁護士のもとに相談に訪れた。

社長

 公益通報者保護法ってのが出来たってことだけど、うちの会社は何かしないといけないんですか。

弁護士

 公益通報者保護法自体は会社に何かをしろと義務づける法律ではないですよ。でも何もしないと痛い目を見るかも知れない、という法律です。

社長

 む?それってどんな内容の法律なんですか?

弁護士

 簡単にいうと、公益通報者に対して、公益通報したことを理由として、解雇その他の不利益な取扱いをしてはならないという法律です。

社長

 あぁ、最近問題になった食品の偽装表示や自動車のリコール隠しが労働者からの通報で明らかになったけど、そういう通報を保護しようという法律ですか。

弁護士

 そういう事です。

社長

 どんな通報が保護されるんですか?

弁護士

 公益通報の要件は、

  1. 労働者が
  2. 不正の目的ではなく
  3. 労務提供先の法令違反行為等について
  4. 労務提供先の通報窓口や行政機関あるいは事業所の外部の者に
  5. 通報することが必要です。
社長

 うちの会社は派遣社員を使ってるけど、派遣社員も労働者に含まれるんですか?

弁護士

 派遣社員も入ります。正社員だけでなく、パート・アルバイトや退職者も含まれます。ただ、取引先は含まれませんけどね。

社長

 法律がわざわざ「労務提供先」という言葉を使っているのはどういう意味ですか。

弁護士

 直接雇用関係にある労働者に限らず、派遣社員や下請業者の労働者が、派遣先や元請業者の下で業務についている際に違法行為を発見した場合、これらの労働者の通報をも保護しようとしたからです。

社長

 どんな行為が通報の対象となるんですか?

弁護士

 国民の生命・身体・財産その他の利益の保護にかかわる法律における違法行為です。例えば、刑法における業務上横領行為や、食品衛生法に違反する香料等の使用行為、道路運送車両法における虚偽報告(届出)などが含まれます。但し、脱税や公職選挙法、政治資金規正法上の違法行為などは対象外とされています。また、事業に従事する場合の行為に限定されています。

社長

 それで、どこに通報することになっているんですか?

弁護士

 通報先としては、事業者内部、処分・監督権限を有する行政機関、報道機関や消費者団体等の事業者外部の3つが挙げられています。

社長

 うーん。会社の外部に通報されるのは、会社としては嫌だなあ。

弁護士

 この法律はね、まずは事業者内部で是正・改善することが望ましいとして、事業者内部への通報を誘導するため、内部通報での保護要件を緩くし、行政機関、さらには事業者外への外部通報は保護要件を厳しくしているんですよ。

社長

 とすると、会社内に通報窓口を作って、通報を受け入れる態勢を作らないと、外部に通報されても文句は言えないって訳か。何もしないと痛い目を見るってそういう事だったんですね。

弁護士

 そうです。通報したことを理由に解雇その他の不利益な取扱いは出来ないことになります。

社長

 だけどうちの会社は大丈夫ですよ。通報されるような悪いことしてないからね。

弁護士

 いやいや、社長の目の届かないところで従業員が通報すべきかどうか悩んでいるかも知れませんよ。
 この法律は事業者が自主的に通報処理の仕組みを整備してコンプライアンス(法令遵守)経営を強化することに主眼がおかれています。この法律を契機に内部の声を反映して自ら是正改善してくための制度、すなわち内部通報システムの確立こそが、今事業者には求められているのです。

社長

じゃあ、うちも通報窓口を作らないといけないですね。

弁護士

 でも、通報窓口を作るだけではダメですよ。社内に周知させることが重要です。