法律相談の際によく聞かれることは「主人がものすごい借金をしていることがわかったのですが、離婚しないといけませんか」という質問である。
法律上の財産関係では、夫婦といえども基本的には他人である。法律的に言うと、権利義務の主体が異なるということになる。したがって、夫婦の一方がこしらえた巨額の借金が、自動的にもう一方の借金になることはない。このケースでは、相談者が連帯保証人になっていないかという点を確認した上で、「大丈夫ですよ。ご主人の借金をあなたが払う必要はありません。そんなことで離婚する必要はないですよ」と答えた上で、性質の悪い業者の場合、法律上許されないにもかかわらず債務者の家族に請求してくる場合があるが決して支払う必要はないこと、あまりに請求がしつこいようなら早急に弁護士に相談するよう説明する。
相談者の方は、愛する夫と別れなくて済むためか、自分の財産が危険にさらされないことがわかったためか、とても安心されるようである。
しかし当然に、逆のケースもあり得る。つまり「奥さんにお金を貸したのになかなか返してくれない。ご主人は立派な会社に勤めていて収入があるので、ご主人に返済して欲しい」という相談である。この場合、先ほどのケースと違って、納得していただくのはなかなか難しい。「夫婦といえども法的には他人なので…」と切り出し説得を試みるも、「妻の借金なんだから、旦那だって責任があるじゃないか!」「夫婦なんだから、他人に対してきちんと責任を取るのは当たり前だ!」と、怒り心頭という方も中にはおられた。
確かに、民法には日常家事債務という定めがあり、夫婦は日常生活に必要な範囲では相互に代理権を持つと定められているので、日常生活に不可欠な範囲の借金、例えば八百屋さんやクリーニングのツケといった範囲では、夫婦のいずれにも請求することができる。しかし、多額の借金となるとそうはいかない。やはり原則として、妻の借金は妻の責任、夫の借金は夫の責任なのだ。この点を理屈で説明してもなかなか納得していただけないので、逆に尋ねてみる。「あなたの奥さんが、あなたの知らないところで借金を作ってきたとします。債権者から請求されたら、あなたは素直に払いますか?」。大抵の方は「…それは困ります…。」。気持ちよく納得とはいかないものの、渋々ながら理解されるようである。
夫婦の他方の財産をあてにするのであれば、連帯保証を受けるか、連帯債務にしておく必要がある。
夫婦とは、家族でもあり、他人でもある。奥が深い関係である。