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社長 |
こんにちは。先日お願いした契約書の検討は進んでますか? |
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弁護士 |
申し訳ない、もう少し時間を下さい。今国選事件でバタバタしてるもんだから。 |
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社長 |
相変わらずお忙しいね。しかし、国選弁護って、そんなにはたいしたお金は貰えないんでしょう? |
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弁護士 |
残念ながら、国選事件だけじゃ事務所は維持できませんねぇ。 |
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社長 |
いつもお忙しそうだし、お金にもならないのに、何で悪い奴の弁護をしてるんですか? |
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弁護士 |
例えばさ、錦のお姉さんが客と二人だけで深夜の巷に消えていって、その後二人の姿を見た人はいない、翌日お姉さんが殺されてた、客にはアリバイは無い、そんな事件があったとしたら、あなたはどう思う? |
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社長 |
そりゃその客が一番怪しいでしょう。男女関係のもつれなんていう話はよくありますからね。 |
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弁護士 |
でも、この間社長は、私と飲んだ後、ご贔屓の麗子ちゃんと夜の巷に消えていったよね。運悪く麗子ちゃんがその夜殺されてたら、社長が容疑者ということなんですよ。 |
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社長 |
げっ。でも私は人殺しは絶対しませんよ!。 |
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弁護士 |
世間や警察がその弁解を信じると思います? |
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社長 |
なるほど、えん罪の可能性は常にあるということですね。でも、本人が最初から認めてる事件なんかは違うんじゃないですか? |
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弁護士 |
本人が認めていたとしても、中には無理矢理認めさせられたという事件だってあるし、第三者をかばっている事件だってあるんですよ。それに、介護疲れで寝たきりの妻と無理心中を図ったなんていう可哀想な事件だってある。そういう本人に有利な事情についてきちんと判決に反映されないといけないでしょう。だから、弁護人は必要とされているです。 |
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社長 |
しかし、オウム事件の麻原被告はどうです?弁護士さんの一家まで殺されているんですよ。あんな奴はさっさと死刑にすりゃいいんじゃないですか? |
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弁護士 |
あの事件にしたって、本当に麻原被告が全部の事件について細かく指示したのかどうか、その点の確認は必要だと思いますよ。現実の裁判では、幹部が麻原被告の指示に従っただけであれば、その幹部については無期懲役になる可能性もあるけど、幹部が独断で指示したとすればその幹部が死刑になる可能性が高いんです。だから、幹部が死刑になりたくないがために、麻原被告に責任を転嫁している可能性も否定できないと思うんです。そもそも刑事事件の被告人については、逮捕された時点で世間の皆が「悪い奴だ」と思っているわけだから、麻原被告だけを例外にしたら、全ての事件が例外に当てはまってしまうでしょう。その意味では、誰であろうと、調べるべきことは調べるということは必要なんですよ。 |
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社長 |
なるほどね。確かに、ときどき再審で無罪になる例もありますね。ついでにききますが「疑わしきは罰せず」というのもなんか釈然としませんが? |
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弁護士 |
基本的にどう考えるかという問題だと思います。社会の安全のために、犯罪を犯した、いわば黒い奴は一人残らず処罰しないといけない、ということになれば、物的証拠が乏しい事件は沢山あるのだから、どっちか判らない灰色の人達が間違って罰せられてしまう危険性は避けられません。近代国家の法律の考え方は、国家が無実の人を刑務所に入れて自由を奪ったり死刑にしてしまう、そんなことは絶対にあってはならない、という考え方にたっています。そうなれば、誰が見ても納得できるだけの立証が尽くされた場合にのみ有罪にできる、そういう考え方を前提に裁判を進めなければなりません。だから、「疑わしきは罰せず」ということになるわけです。 |
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社長 |
アメリカの陪審裁判もそうなんですか? |
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弁護士 |
全く同じです。アメリカの法廷ドラマなどで、「ギルティ、オア、ノットギルティ」というシーンがよく出てくるよね。日本語では「有罪か無罪か」と訳されているけど、正確に言えば「有罪か、有罪ではないか」と言うべきだと思いますよ。 |
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社長 |
しかし、物的証拠が乏しい事件で、有罪か無罪かを決めるなんて、裁判官も大変な仕事ですね。 |
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弁護士 |
社長、人ごとじゃないですよ。もうじき裁判員制度といって、国民から無作為に選ばれた人達が裁判官と一緒になって裁判をすることに決まっているんだから。その内に、社長の目の前で私が弁論をするということもあり得ることですよ。 |
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社長 |
えっ!やりたくないですよ、そんなの・・ |
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弁護士 |
そうおっしゃらないで。裁判というのはもともと国民のための制度なんだから、国民の常識が反映されなきゃいけないのです。これまで国民にとっては、裁判は他人事だったんでしょうが、この制度により、皆さんに裁判を身近に感じてもらえると思いますよ。 |
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社長 |
そんなもんですかねぇ。まぁ、万が一私が裁判員に選ばれたら、改めてお話を伺わせてもらうことにしますから。取りあえず、飲んでばかりいないで、仕事もお願いしますよ。 |