アスベスト問題とお役所体質

 
 アスベストの危険性が問題となっている。空中の繊維を吸い込むことでじん肺,中皮腫を発症する恐れがある。吸い込んでから発症するまでの潜伏期間が二〇〜四〇年もあると言われている。アスベストが吹き付けてあることが判明したために使用が禁止された公共のホールや教育機関があり,果ては閉園に追い込まれた幼稚園まであるようである。

 国際労働機関(ILO)や世界保健機関(WHO)がアスベストの危険性を指摘したのは一九七二年である。政府もこの時点で危険性を認識し,一九七六年には労働省(現厚生労働省)からアスベスト含有製品の代替化の指示が出されている。

 しかし,代替品がないことなどを理由に全面的に使用を禁止する法案は成立しなかった。使用が原則として全面禁止されたのは二〇〇四年に至ってからである。例外を認めない全面禁止となるのは二〇〇八年になるとのことである。

 他方,ノルウェーでは一九八四年,ドイツでは一九九三年,フランスでは一九九六年にアスベストの使用が全面的に禁止されている。

 この一連の流れは,薬害エイズ問題のリメイクドラマを見ているようである。「先例がない」ことを理由に役所が動かない例は少なからず見受けられる。しかし,先例のある問題だけが発生する訳ではない。先例がない時に知恵を絞って国民全体の利益となるよう行動するのが「すべての公務員は,全体の奉仕者」と定める憲法一五条二項の趣旨ではないのか。

 危険性を認識しながらも問題が具体化するまでは何も対策を講じようとしないお役所体質は,どうにかならないのであろうか。私たちの納める税金から安定した給料を得ている理由を公務員にしっかり認識してもらいたい。(NU)