「不動産登記法」の改正


      「不動産登記法」の改正


 「登記の電子申請(いわゆるオンライン登記申請)の導入」をきっかけとして、実に105年ぶりに不動産登記法の全面的な改正が行われ、本年の3月7日より施行されております。名古屋法務局も本年8月29日からオンライン指定庁となり、私たちを取り巻く不動産登記制度が益々変化しました。
 


社長

 土地を買って登記しても、権利証がもらえないって言う話を聞いたんだけど、どういうことですか。

弁護士

 ああ、それは、不動産登記法が改正され、名古屋法務局がオンライン指定庁になったことに伴って、いわゆる権利証と言われる「登記済証」の制度が廃止されたからですよ。

社長

 えっ、「登記済証」の制度がなくなったって!なんでそんなことしたんですか。だって、登記済証を持ってることが、不動産の権利者であることの証明になるのに、登記済証がなくなってしまったらどうやって自分が権利者であることを証明すればいいのですか。

弁護士

 インターネットが発達した時代の要請から、登記もオンラインで申請できるようにしようという目的で、この度、法律が改正されたのです。これまでは、自分の所有する不動産を売却したり、担保に入れたりするときは、登記所の窓口に登記済証を提出して、自分が権利者であることを証明していましたが、オンラインで申請する場合に登記済証のような書面は送ることができませんよね、そこで、これまでの「登記済証」に代えて「登記識別情報」というものが通知されることになったんですよ。

社長

 そうですか、確かに、オンラインで書面は送れませんね。でも、その「登記識別情報」って、一体何なんですか

弁護士

 「登記識別情報」とは、12桁の英数字からなる、いわば暗証番号のようなものですよ。

社長

 じゃあ、銀行の暗証番号みたいに自分で好きな12桁の英数字を選べるんですか。

弁護士

 いえいえ、自分で選ぶことは出来ません。登記所が無作為に抽出した12桁の英数字が通知されるんですよ。今後は、不動産を売却したり担保に入れたりするときには、これまでの「登記済証」に代えて、この「登記識別情報」を登記所に提示することになります。ですから、今後は、「登記識別情報」を知っているかどうかが、権利者として判断される要素となるのです。

社長

 ちょっと待って下さい。私にも土地がいくつかありますが、「登記済証」は持ってますけど「登記識別情報」なんて、教えてもらっていないですよ。私が、今大事に持ってる「登記済証」は単なる紙きれになってしまったのですか。

弁護士

 いいえ、「登記済証」の制度が廃止されたからといっても、今ある「登記済証」に代えて「登記識別情報」が通知されるわけではないので、登記申請の際には今お持ちの「登記済証」が必要ですから、これまでどおり大切に保管してくださいね。「登記済証」の制度の廃止はそれぞれの登記所がオンライン庁に指定された時から順次開始されています。現在、徐々に全国の登記所のオンライン化が進んでいますが、名古屋法務局も今年の8月にオンライン庁に指定されたばかりですし、まだまだオンライン庁に指定されていない登記所があります。オンライン庁に指定されていない登記所では、これまでと同様に「登記済証」を提出して登記手続きを行い、登記後には権利者の方に「登記済証」が渡されます。

社長

 じゃあ、その基準日が経過しない限りは確定しないんですね。それなら、債務者を信用して保証人になった時に、たとえその人が亡くなっても、その時が基準日前なら絶対確定しないんですか。

弁護士

 いえ、そんなことはありません。元本確定期日とは別に、元本確定事由といって、時期とは関係なく、当該事情が生じたら元本が確定するという事由も定められました。
 この元本確定事由として、これまで裁判例で認められていたもののうち、(1)主たる債務者又は保証人の財産に対する強制執行又は担保権実行の申立て、(2)主たる債務者又は保証人の破産手続開始の決定、(3)主たる債務者又は保証人の死亡という3つの事由が定められました。

社長

 じゃあ、今後、オンライン庁で登記手続きをした場合に初めて「登記識別情報」が発行されるということですね。

弁護士

 ええ、そうです。あと数年間は、「登記済証」の制度のある登記所とない登記所が併存することになるでしょうね。あと、社長に知っておいて頂きたいこととしては「登記識別情報」は、不動産ごとに、かつ登記名義人ごとに個別に発行されるということです。例えば、ご夫婦の共有で土地と建物を取得された場合には、夫と妻にそれぞれ2個の「登記識別情報」が発行され、合計4個の登記識別情報が発行され通知されることになります。社長のように土地をいくつか持っていらっしゃる方ですと、今後は「登記識別情報」の管理が大変になるかと思います。

社長

 はぁ・・。「登記識別情報」の管理ですかぁ?

弁護士

 そうですよ「登記識別情報」は、文字通り情報ですからね、忘れたり、他人に知られたりするおそれもありますし、仮に、誰かに盗み見られてたとしても、物理的に何かが無くなるわけではないので、そのことに気がつくことは困難なのです。

社長

 確かに、「登記済証」が無くなればすぐに気付きますけど、「登記識別情報」が盗み見られたかどうかなんてわからないですよね。そうなると管理が大変というわけですか。では、何か救済手段として、例えば、「登記識別情報」をメモした紙を紛失した場合などにとる手段はありますか。

弁護士

 はい、「登記識別情報」の管理の困難性を考慮して、登記名義人本人又はその代理人の請求によって「登記識別情報」を失効させることが出来ます。しかし、これまでの登記済証の再発行制度が否定されていたのと同様に、一旦「登記識別情報」を失効させた場合には、新たな「登記識別情報」が再発行されることはありません。

社長

 再発行してもらえないとなると、「登記識別情報」を失効させた場合には、どのように登記申請すればいいのですか。

弁護士

 「登記識別情報」は、本人確認のための手段ですから、他の方法で本人確認を行うことになります。具体的には、事前通知制度か、資格者による本人確認情報を利用することになります。事前通知制度とは、「登記識別情報」を提示することなく、登記申請をすると、法務局が、本人限定受取郵便(郵便局から本人に通知書が送られ、郵便局の窓口で運転免許証などを提示して受け取る郵便。)による通知書を発送し(通知書には、登記申請があった旨、及び登記申請に間違いがない場合にはその旨の申し出をすべき旨記載されています。)、不動産の所有者が、その通知書に署名し実印を捺印した上で、法務局へ持参することで本人確認をすることになります、仮に本人からの申し出がないと登記申請は却下されます。また、資格者による本人確認情報とは、我々弁護士等、登記申請の代理を業とする資格者が、所有者が、本人であるかどうかの調査及び確認等をして報告書を作成します、この報告書を資格者による本人確認情報といい、これを登記識別情報に代えて添付し、代理人によって登記申請をすることで、事前通知制度を省略することができます。

社長

 そうですか、これからは情報の管理にも気をつける必要がありますね。

弁護士

 ええ、私たち弁護士もそのように重要な「登記識別情報」を代理人として知りうる立場にありますから、守秘義務や管理責任を徹底していきます。