混乱回避に遺言状作成を 〜“若貴問題”から見る遺産相続〜

 
 名大関と言われた貴ノ花が亡くなった。二子山親方と呼ばれる根拠となっていたのが,年寄株「二子山」である。

 この年寄株は105しかなく,かつて裁判で時価1億7500万円という評価がなされたこともある(ただし,後に高裁で否定された)。年寄株を取得できる条件も(1)三役以上を1場所以上,(2)幕内通算20場所以上,(3)十両と幕内通算30場所以上,のいずれかを満たす必要があるようである(一部例外あり)。しかし,年寄株を取得すれば,財団法人日本相撲協会の理事として現役引退後も協会から安定した給料をもらうことができ,65歳の定年までよほどのことがない限り失業する可能性もない。

 そこで,この年寄株「二子山」を誰が相続するのかが問題となる。二子山親方は奥さんと離婚しておられたので,法的には若貴兄弟が相続権を有することになる(と原稿を作成していたら,若乃花が相続放棄した旨の報道が入ったが,ここでは無視して話を進める)。

 これは,創業者社長が死亡した場合に,その企業の株式を誰が相続するのかという問題と似ている。次の社長に就任することが予定されている相続人からすれば,会社だけでなく,その株式も相続しない限り,会社を安定的に経営することができなくなってしまう可能性が高いからである。

 では,後継者以外の相続人が相続放棄をしないで,遺産分割の争いになった場合,どうなるのであろうか。

 年寄株については,死亡後3年間は年寄株を取得する資格のない者(例えば,おかみさん)が保有することを認めているようである。要はその間に資格のある者に譲渡しなさいということであろう。

 しかし,会社では困ったことになる。誰が会社の株式を相続したのか確定しない状態では,株主総会の招集通知を誰に送るのか,総会での権利行使を誰が行うのかが決まらないからである。株主総会は年に一度必ず開催しなければならない。しかも,取締役の任期は2年以内とされているから,任期切れまでに遺産分割の話し合いの決着がつかなければ,取締役の選任決議も満足に行えないことになる。これでは,安定した会社経営などできるはずもない。

 やはり,事業の承継に必要な財産は,後継者に相続させる旨の遺言を作成しておく必要がある。

 なお,既にマスコミ報道によりご存じの方も多いと思うが,テープによる遺言は法的に無効なのでご注意あれ。(NU)