子どもが他人にケガを負わせたら……


     
「加害者本人責任」が原則
         焦点は責任能力の有無
             親の責任 否定される場合も



 子ども達は、いよいよ長い夏休み。この季節、子どもの自主性を尊重したいとは思う一方、学校の目が届かない開放感か ら、子ども達の間で事件・事故が起こってしまうのではないかと心配で、ついつい子ども達に口うるさくなってしまう方も多いのではないでしょうか。
 万一、子どもが加害者になってしまった時、 子ども自身や親が、被害者に対し、どのような民事的な責任を負うことになるのかについて、この機会に親子で話しあってみませんか?

(弁護士の父と高校生の娘との会話です)

 同じクラスのAって子がさ、些細なことで人を殴って、相手を骨折させちゃったらしいんだけど、未成年で学生でも、損害賠償とかの責任ってある?

 未成年たって、お前と同級ならもう高校2年生だろう。故意に人を殴って怪我をさせたのなら、A君も成人の場合と同様、不法行為に基づく損害賠償責任(民法 709条)を負うぞ。年少者だからという理由で、子ども自身は損害賠償責任を負わないとされるのは、裁判例上、 12才前後までなんだ。

 なんで12才前後を境に、責任を負ったり負わなかったりするの?

 それは、法律上、不法行為に基づく損害賠償責任を負わせるためには、加害者に「責任能力」が必要だからだよ。

 責任能力って何? 

 自分のやった行為で、どんな法律上の責任が発生するのかを判断できる程度の能力のことだ。正当な理由もないのに人を殴って怪我をさせれば、損害賠償責任という法律上の責任が発生する、といった判断だな。この責任能力が子どもに認められる境目が、一般的には 12歳前後とされているんだ。

 ふーん。子どもに責任能力がない時は?

  民法714条に、責任能力のない者が第三者に加えた損害については、監督義務者が責任を負うという内容の規定がある。  子どもが年少のうちは、親が、監督義務者として、被害者に対し損害賠償責任を負う、というわけだ。 

 加害者の子どもに責任能力があれば、親に民法七一四条の責任は追及できないの?

  その通り。民法 714条は、あくまで子どもに責任能力がない場合の規定だからな。 

 でも、責任能力が認められる年齢の「12才前後」って結構幅があるね。加害者の子どもが 11才とか12才だったら、責任能力があるかどうか、かなり微妙ってことじゃん。
 そういう時って、被害者の人はどうすればいいわけ?親にお金払って貰おうとして、民法714条の責任を追及しても、子どもに責任能力あり、って判断されたら終わりなの?
 加害者の子どもには請求できるったって、11才や12才の子に請求しても、お金なんて持ってる訳ないし、なんか、被害者の人が救われない気が…。

 なかなか鋭いな。そういう問題に対応するために、子どもに責任能力があり、子ども自身が損害賠償責任を負う場合でも、それとは別に、親にも、民法 709条の損害賠償責任を負わせるための理論があって、裁判例でもその理論は定着しているんだ。

 なーんだ。じゃあ、被害者はどうせ親からお金を払ってもらおうとするんだから、加害者の子どもの年は、結局あんまり関係ないんじゃないの?

 それは違う。子ども自身に責任能力が認められる場合と認められない場合とでは、親に対する責任追及の困難さが大きく違ってくるんだ。

 子どもに責任能力がない方が、親に対する請求は楽なの?

 そう。子どもに責任能力がない場合は、親は、子どもに対する監督義務を尽くしたことを親の方で立証できない限り、子どもが第三者に与えた損害に対して責任を負わなきゃいけない(民法 714条)。年少者の親は、子どもの全生活領域について監督義務を負うから、親が免責されるには、子どもの生活関係全般について監督義務を尽くしたことを立証しなきゃいけないんだけど、そんな立証は極めて困難だ。だから、ほぼ確実に親が責任を負うことになる。

 子どもに責任能力がある時はどうなの?

 その場合は、被害者の方で、(1)親に監督義務違反があったこと、(2)親の監督義務違反と子どもの加害行為との間に相当因果関係があることを立証しないといけないんだ。 

 (1)の監督義務違反は何となく分かるけど、(2)の相当因果関係って何?

 「子どもをきちんと監督しないで放任しておけば、子どもが第三者に加害行為を行う可能性があることを、親は十分予見できた」、ということだ。 

 (1)(2)を立証するには、具体的にどんなことを言えばいいの?

 例えば、その子どもに過去にも非行歴があったのに、学校の先生やしかるべき機関に相談したり、本人によく注意する等、第三者への加害行為を防ぐための積極的な働きかけを親がしてこなかった、といった事を立証することになるね。 

 A君は、真面目で非行歴なんて全然なかった。そういう時は、親の責任が否定されたりするの?

 そうだね。裁判例でも、高校生のバイク事故で、少年が以前には事故を起こしたことがなく、特に非行歴もないことを重視して、親の責任を否定した例などがある。日頃の行動に問題がなかったり、事故が偶発的な場合なんかには、親の法的責任が否定されることもありうるね。 

 未成年でも、自分のしたことに自分だけで責任取らなきゃいけない場合もあるんだね…。

 実際に加害行為をした人が責任を取るのが法律の原則だからね。民法714条はその例外だけど、それでも、「親の監督義務違反」という親自身の過失を前提としている点で、やっぱり自己責任の側面はある。お前も、ゆうに責任能力が認められる年なんだから、自分の行為の責任は自分で取らなきゃいけないことを考えてから行動するんだぞ。 

 …はーい(…結局、説教になるんだよな〜…。)。