予想外の責任を回避 〜「包括根保証制度」の改正〜


      金額で極度額明確化

         法人には不適用

            契約すべて書面化を


 「保証人には絶対になるな。」そんな言葉を耳にする一方で、連帯保証人になったばかりに過酷な責任から逃れられず、破産や夜逃げ、更には自殺までしてしまう悲劇が後を絶ちません。そこで、保証人に対する責任を軽減するため、「包括根保証」の廃止等保証制度を見直す内容を盛り込んだ「民法の一部を改正する法律」が、平成17年4月1日から施行されています。
 これは、長期化する不況対策の一環として金融庁が発表した「新しい中小企業金融への取組みの強化」の中に「(個人の)担保・保証に過度に依存しない融資の促進」ということが明記されたことを契機に改正がなされたものです。
 


社長

 銀行から融資を受けようと思ったら、根保証契約書の「極度額」という欄に、借入総額よりも上乗せした額を記入するよう言われましたよ。何かおかしくないですか。

弁護士

 それは、極度額を明示することなど根保証制度が改正されたからですよ。

社長

 えっ、保証がまた厳しくなったんですか。そもそも「極度額」って一体何なんですか。

弁護士

 極度額というのは、保証人が最終的に返済を迫られる可能性のある限度額のことです。
 今までは、極度額等を明示せず、際限なく返済の責任を負う可能性のある包括根保証というものがあったのですが、それが廃止されて、貸金等根保証契約の極度額は、必ず具体的金額として明確化しなくてはならなくなったのです。
 しかも、極度額には、元本・利息・損害金など全てを含むので、たとえ訴訟で時間がかかって利息が膨大になったとしても、極度額以上は支払わなくてよいことになったのです。

社長

 そうなんですか。じゃあ、保証人として返さなければならない限度額を自分で決めることができるんですね。
 ところで先ほど「貸金等根保証契約」って言ってみえましたけど、それは何ですか。

弁護士

 それは、債務の中に、金銭の貸付けや融資、手形割引のような貸金等債務が含まれる根保証契約のことですよ。

社長

 なるほど。目的が「中小企業金融への取組みの強化」だから、まさに中小企業がしそうな金融取引が対象になっているということなのですね。
 他にはどんな事が定められたのですか。

弁護士

 そうですね、保証契約は全て「書面」化しなければ効力を生じないことや、貸金等根保証契約において、元本確定期日の定めがある場合は契約日から5年以内、定めがない場合は3年で元本が確定すること等が定められました。

社長

 「元本」とか、「確定する」とかってどういう意味なんですか。

弁護士

 元本というのは、根保証契約で保証される債権のことで、確定というのは、その時点で存在する全ての債権を元本とするということです。つまり確定以前の借入等は全て元本として保証の対象になるけれども、確定以降は、仮に新たな借入があっても保証の対象にはならないということです。元本確定期日とは、その基準となる日のことです。

社長

 じゃあ、その基準日が経過しない限りは確定しないんですね。それなら、債務者を信用して保証人になった時に、たとえその人が亡くなっても、その時が基準日前なら絶対確定しないんですか。

弁護士

 いえ、そんなことはありません。元本確定期日とは別に、元本確定事由といって、時期とは関係なく、当該事情が生じたら元本が確定するという事由も定められました。
 この元本確定事由として、これまで裁判例で認められていたもののうち、(1)主たる債務者又は保証人の財産に対する強制執行又は担保権実行の申立て、(2)主たる債務者又は保証人の破産手続開始の決定、(3)主たる債務者又は保証人の死亡という3つの事由が定められました。

社長

 じゃあ、債務者が亡くなったらその時点での元本で確定するということになるんですね。

弁護士

 そうです。これら規定により、要式、金額、期間のあらゆる面で根保証契約を制限できることになったので、保証人としては予想外の責任は回避できることになりました。
 ただ、この改正は個人保証人の保護に主眼がありますから、保証人が法人の場合には適用されません。

社長

 えっ、じゃあ私の会社自身が、取引先の保証人になる場合には、適用されないんですか。

弁護士

 そうです。会社などの法人は、合理的で適切な経営判断が出来るからという理由によります。

社長

 そうなんですか、それは気をつけないといけないですね。じゃあ、会社が根保証契約をすると、以前のように、際限なく返済の責任を負う可能性があるんですね。でも、個人で保証人になる場合は、自分で限度を設定できるし、五年以上経って忘れた頃に、突然知らない金額が請求されることはなくなったのですね。色々な面に配慮されていて、保証人としてはもう安心ですね。

弁護士

 んーん、でも今回の改正では、保証人の資力に見合った極度額を設定するための客観的な基準は定められず、金融機関の内部基準や債権者との話し合いによるのみとなってしまいました。
 また、保証人に対して、主債務の残高や債務者の資力状態などを通知する義務等も定められませんでした。保証人の保護としてはまだまだ不十分な内容なのです。保証人がこれら情報を入手できることは、保証人保護の目的に適うことは勿論、金融機関側からみても、最終的には債権回収不能というリスクを軽減することになるのですから、更に法整備すべきだと思うんですけどね。
 結局、保証人の責任が軽減されたといっても大きな負担を負いますから、やっぱり安易に保証人になってはいけないという点は変わりないということですね。