平成18年施行見込み 労働審判制度とは

 
      労使紛争の急増に対応
         
労働審判委員会が審理 〜専門家が迅速かつ適正な解決図る


1.労働審判法の成立
 法律の成立・変更が目まぐるしくなされ、国民にもスピーディーな理解・対応が求められる昨今、事業者と労働者の紛争のあり方を大幅に変えるかもしれない労働審判制度をご紹介いたします。
 労働審判制度を規定する労働審判法は、平成16年4月28日に成立し、平成18年4月ころに施行される見込みの法律です。

2.成立の背景は?
 バブル崩壊後の厳しい経済・雇用情勢が続く中、リストラや企業組織の再編が進むとともに、企業の労務管理の多様化、就業形態・就業意識の多様化が進展してきました。こうした状況の下、個々の労働者と事業主との間の労働関係に関する紛争が大幅に増加してきておりました。例えば、地方裁判所での労働関係民事訴訟事件は、平成3年から平成15年までの間に約四倍に増加しております。
 そうした中で、個別的労働紛争の早期かつ適正な解決を図ることができる制度の導入が検討されてきました。
 その結果としてこのたび制定導入されたのが労働審判制度なのです。

3.労働審判制度とは?
 労働者と事業者との間の個別的労働関係民事紛争に関して、地方裁判所において、裁判官と労働審判員で構成される労働審判委員会が、迅速な手続きにより、話し合い(調停)を試み、解決に至らない場合には一定の法的拘束力ある結論(労働審判)を行う制度です。
 話し合いをベースとしつつも、決裂の際には、一定の法的拘束力がある結論を出すことができる手続なのです。

4.制度の特色は?
 労働審判制度の特色として、次の3つがあげられます。
(1) 迅速性
 訴訟手続は「長い」というのが常識でした。これまでの訴訟手続は平均して1年以上かかっていたのです。ところが、労働審判制度では、原則3回以内の期日で決着をつけるよう決められています。手続期間としては、申立から4〜6カ月程度で終了すると考えられます。
 ただし複雑な事件は審判によらないで終了するとされていまし、加えて、審判に対して不服のある人は、異議申立を行うことができ、その場合には、訴訟手続移行することになります。
(2) 専門性
 労働関係の専門家が関与する手続です。
 手続を進める中心的役割を果たす労働審判委員会は、裁判官である労働審判官1名と労働関係に関する専門的な知識経験を有する労働審判員2名の合計3名によって構成するとされています。
 そして労働審判員は、労働者側及び事業者側の双方から1名ずつ選出されることとなりますが、中立公正な立場で審理判断を行っていきます。
(3) 手続の適正性
 迅速な手続ではあっても、証拠もなく口だけで言い争っているだけでは、勝ち目はありません。といいますのも、労働審判制度では、当事者や関係者から話を聞いたり、証拠書類等が提出されたりして、それらを吟味のうえで、適正な審判がなされることが保障されています。
 ですので当事者は、早期に事実関係や法律論についてしっかりと主張を行い、必要な立証をしないと、負けてしまう可能性が高いのです。
 そういった面もありますので、労働審判制度では、代理人を立てる場合、「弁護士でなければならない」とされています。

5.どのような紛争で利用されるのか?
 例えば、労働者が解雇の効力を争う事件や、労働者が賃金手当・退職金等の支払を請求する事件に利用されることになるでしょう。
 ただし集団的労使紛争は対象外とされています。また例えば賃金未払でも、事業者が資金不足で支払えないことを認めているようなケースでは、都道府県労働局のあっせんや、簡易裁判所の民事調停などで分割払いの話合いをした方がよいと思われます。また思想差別や男女差別など事件の背景に複雑な事情や人間関係があるような事件も、労働審判には重すぎて3回の手続で判断をすることは困難かと思われます。
 とすると労働審判は、法的な権利義務関係に争いがあり、その争点について3回程度で主張立証していくことが可能と思われる紛争がふさわしいと考えられます。

6.では労働審判で何が変わるのか?
 まず労働者としては、これまで「裁判というと解決に長い時間がかかるから諦めよう」と思っていたようなケースでも、短期間で結論が出るということであれば、比較的気軽に申立を行うことができるようになるでしょう。
 一方、事業者としても個々の労働者との紛争解決について短期間にて結論が出されることから、紛争解決コストの軽減につながるものと考えられます。
 さらには我々弁護士や裁判所は、労働審判制度では、従前の裁判手続のペースではなく、短期迅速に手続を進めることが期待されています。このような早期紛争解決の制度の導入が、他の一般訴訟事件にも影響を与えて、裁判制度自体がよりスピーディーな解決を目指すことにつながるのではないか、と期待を持って予想しております。