公正証書とは、法務大臣の任命する公証人の作成する文書であり、公証人には、裁判官や検察官として30年以上の実務経験を有するもの等が任命されている。
公正証書のなかには、公証人が自ら感知・認識した事実を記載する事実実験公正証書(たとえば、貸金庫開披点検を記録するための公正証書等)というものもあるが、今回と次回の2回にわたって、一般に多く利用されている、公正証書で作成された遺言書、契約書について触れてみる。
1 遺言公正証書
遺言書は、自ら遺言の全文を記載し、日付を書いて署名押印することによって作成することもできる(自筆証書遺言)。
これに対し、公正証書遺言というのは、公証人が遺言者の遺言内容を記録し、遺言者と証人2人に読み聞かせたうえ、遺言者と証人2人が署名押印したものに、公証人が署名押印することによって作成されるものである。
公正証書遺言は、公証人が遺言作成に関与することによって、内容的にも手続的にも、正確で確実な遺言が作成できるものである。また、遺言者には公正証書の正本等が交付されるが、原本が公証人役場に保管されることから偽造・変造のおそれがなく、保管も確実である(一般に遺言者が百歳になるまで保管されている)。そして、公正証書遺言は、現在では、コンピューターによって管理されているため、公正証書遺言を作成していると思われる場合には、検索も容易である(なお、相続人等の利害関係人からの遺言者死亡後の請求に限られる)。
また、公正証書遺言の場合には、自筆証書遺言の場合に必要とされる検認の手続も不要である。遺言書の検認手続とは、遺言書の保存を確実にし、後日の変造や隠匿を防ぐために家庭裁判所で行うものであり、相続人全員に立会いの機会も与えられるものである。そして、自筆証書遺言書の保管者や発見者は、家庭裁判所に検認手続の申立をすべき義務があるとともに、自筆証書遺言の場合、検認がなされなければ、遺言の内容に従って執行することもできない。
このように比較してみると、公正証書遺言の場合には、作成が面倒であり、また、費用もかかるものとはあるが、遺言者死亡後の手続、紛争予防を考えれば、公正証書遺言を作成しておくことは望ましいと思われる。
なお、遺言書は、一旦作成した内容を、いつでも遺言書の形で全部または一部を撤回できるのであり、公正証書遺言で作成したものを、後日、自筆遺言で撤回することもできる。そのため、遺言検索システムで最終の公正証書遺言がみつかったとしても、それ以降に作成された自筆証書遺言があれば、後で作成された自筆証書遺言の内容が優先することになる。