ここ数年来の破産事件数の増加に伴い、現行破産法(以下「旧法」)について、手続の合理化・迅速化をはかり、その不備を是正すべきとの声も大きくなっていました。
そこで、平成17年1月1日より、新しい破産法(以下「新法」)が施行されることになりました。
以下では、その改正点のうち、一般的に影響がありそうな点に絞ってご紹介したいと思います。
1 労働債権者の保護
|
Q |
破産した会社の従業員は職を失いますが、新法では、未払給料や退職金(労働債権)はどのように扱われていますか?
|
|
A |
破産会社からの給料で生活していた従業員やその家族にとって、労働債権が支払われないという事態は、まさに死活問題です。
この点、旧法においても、労働債権は、「優先的破産債権」として、他の一般破産債権(貸金や売掛金等)よりは優遇されていました。ところが、租税債権(税金)などは、優先的破産債権よりさらに優先される「財団債権」という債権に区分されており、何よりも先に支払を受けることとなっていました。破産事件では、この「財団債権」しか支払を受けられない事件も少なくなく、税金は全額支払を受けたものの、優先的破産債権である「労働債権」は、結局配当を受けられないということがしばしば見られました。
そこで新法はこれを改め、労働債権のうち、「破産開始決定前の3か月間の未払給料、退職前3か月分の退職金」は、これを税金などと同じ「財団債権」に格上げして、より優先的に支払が受けられるようにしました。一方、税金のうち納期限が1年以上経過したものは、財団債権から優先的破産債権に格下げすることにしています。
|
|
Q |
配当手続が行われるまで労働債権は一切支払を受けられないのですか?
|
|
A |
いくら労働債権が支払われやすくなったとはいえ、最終的に配当がなされるまで(事案によっては数年以上かかります)、その支払を受けられなければ意味がありません。そこで新法は、裁判所の許可により配当手続前であっても早期に労働債権の支払を行なうことを可能にしています。
|
2 賃貸人破産の場合の賃借人の保護
|
Q |
賃貸マンションの大家さんが破産しましたが、私はマンションから出なければなりませんか?
|
|
A |
この場合、旧法の規定では、理屈上、契約を解除されてしまう余地もありましたが、新法は、対抗力を有する賃借人(建物賃貸借であれば建物の引渡しを受けている場合等)であれば、契約は解除されないことを明確に規定しました。
|
|
Q |
私は大家さんに敷金を差し入れているのですが、今後も賃料を払い続ける必要がありますか?
|
|
A |
あなたが契約の継続を望む場合、契約中には敷金返還請求権が具体的に発生していないと解されるため、賃料との相殺は主張できず、賃料を払い続ける必要があります。
ただ、大家さんが破産しているのですから敷金は返ってこない可能性が高いのに、賃料は払い続けなければならないというのも酷であると考えられますが、旧法においては、その扱いが必ずしも明確でありませんでした。
そこで新法は、賃借人は今後の賃料を「寄託」という形で払っていれば、契約が終了して敷金の返還が請求できる状況になった時に、その寄託していた賃料相当分を優先的に返してもらえることが明確化されました。
その他にも、新法は、賃借人において一定期間分(2期分)しか賃料の前払いを主張できなかったのを、前払賃料全額について主張することができるようにするなど、賃借人の保護をはかっています。
|
3 個人債務者への個別執行禁止
|
Q |
破産しても、給料が差し押さえられることもあると聞いたことがありますが、新法はどうなっていますか?
|
|
A |
個人債務者は、破産宣告を受け破産手続が終了したとしても、それだけで債務は帳消しとなりません。その後に、「免責」という別の決定を受けなければならないのです。事案にもよりますが、破産手続が終了してから免責の決定が確定するまでは相当程度の時間がかかるため、旧法では、この間であれば債権者は強制執行(給料や家財道具等の差押)を行なうことが許されるとされていました。しかしながら、これでは債務者の経済的更生は危ういものとなってしまいますから、新法は、債務者の免責決定が確定するまでの間であっても、債権者が個別的に強制執行を行なうことを一切禁じることにしました。
|
4 個人債務者の自由財産の拡張
|
Q |
破産すると、全財産を失ってしまうのですか?
|
|
A |
破産は、破産宣告時に破産者が有する財産を債権者に公平に分配する制度です。ただ、個人債務者の場合、当然ながら今後も生活をしていかなければならず、そのためにはお金も必要となってきます。
そこで、旧法でも、一定の財産(差押が禁止されている財産)は、破産者が自分で管理し、自由に処分できる財産(=「自由財産」)と定められていました。
新法は、より破産者の経済的更生に配慮すべく、さらに自由財産の範囲を拡張することとし、現金については金99万円までを自由財産として認めることにしました。
但し、これはあくまで破産者が99万円を「現金」として所持している場合であり、預貯金や生命保険解約返戻金等はあくまで「債権」であるため、直ちに自由財産となる訳ではありません。しかし、財産を現金として持っているか預金として持っているかで自由財産となるかどうか差が出るのもおかしな話です。そこで新法は、破産者の経済的更生を図るという観点から、裁判所において自由財産の範囲の拡張を行えるようにしています。なお、各裁判所では、破産者が有する一定の基準以下の財産については当然に自由財産とすることを定めることが予定されているようです。
|
5 非免責債権の追加
|
Q |
免責を受けると全ての債務は支払わなくてよいことになるのですか?
|
|
A |
破産した個人債務者が免責を受けたとしても、全ての債務が帳消しとなる訳ではありません。旧法でも、その性質上、支払義務が残る債権(非免責債権)として、税金、罰金、存在を知っていながら裁判所に届けなかった債権、悪意の不法行為による損害賠償請求権などが規定されていました。
新法では、これらに加え、破産者が故意・重大な過失により人の生命・身体を害した場合の損害賠償請求権、破産者が負担する養育費や婚姻費用なども、非免責債権として追加しています。
|
6 その他
|
Q |
その他、新法の主な改正点を教えて下さい。
|
|
A |
以上のほか、新法は、
(1)破産手続の合理化・迅速化のため、各手続を簡易で柔軟なものにしていること、(2)破産者やその役員・従業員の説明義務を強化していること、(3)債権者が相殺を主張できる場合を、総債権者の公平のため従来より制限していること、(4)否認権(破産者が行った債権者の利益を害する行為を否定するもの)の要件・効果を見直していることなどの改正がなされています。
|