法律家になるには?


     
大学卒業後,法科大学院へ
       法改正で司法研修は1年に
          研修生の給料も貸与制に


(弁護士の叔父と高校生の姪との会話です)

 叔父さん、私の進路だけど、法学部に進学し、法律家になろうと思うの。どうしたらなれるか教えてちょうだい。

叔父

 ひろみちゃんもそんな年になったんだ。自分でいうのも何だけど、確かに法律家というのはやりがいのある仕事だし、男女が対等な世界だから、将来の進路としてはお勧めだと思うね。

 本を読んだら、昔は司法試験という難しい試験に合格しなきゃいけなかったらしいんだけど、今も同じなの?

叔父

 これからは、法律が変わったので、法律家になるのなら、法科大学院に進学することになる。いわゆるロースクールだよ。

 法科大学院ということは、まず法学部に進学して、それから法科大学院に行くのね。

叔父

 法学部じゃなくてもよいけど、大学は卒業しなきゃいけない。その後法科大学院に通うことになる。法学部の場合は2年、法学部以外だと3年通わなきゃいけないね。

 法科大学院を卒業したら、もう司法試験は受けなくてもいいの?

叔父

 やはり試験は受けなきゃいけない。ただ、合格率が数%と言われたこれまでの司法試験よりも、合格率は格段に高くなると言われている。当初の制度設計の段階では、法科大学院できちんと教育を受けていれば、8割程度の学生が合格できる試験にするという話が出ていた。もっとも法科大学院の数も予想よりも増えたから、合格率については若干下がる可能性はあると思うよ。

 それじゃあ、その試験に受かったらすぐにでも裁判官や弁護士になれるのね。

叔父

 いや、それから1年間は司法修習を受けなきゃいけないんだ。

 昔朝の連続テレビドラマで「ひまわり」っていうのがあったけど。

叔父

 そう、あれは司法修習生が主人公だった。主演はたしか、松嶋菜々子だったかな。

 聞いていると、医者の世界と似ている気がしてきたわ。

叔父

 方向としては、医者の世界と同じようにするという話だね。大学や大学院でしっかり勉強してもらい、国家試験は勉強の成果を確認するものにし、その上で、医者ならインターン、法律家の場合は司法修習生として更に実務を学んでもらうということだよ。

 司法修習の期間は昔から1年なの?

叔父

 昔は2年だった。昔は一発試験に合格しただけでは法律実務家としては不十分だということで、2年間みっちり実務を学ぶことになっていたんだよ。法科大学院では、大学で法律実務に関する勉強もするから、修習が1年に短縮されたということだと思う。

 司法修習生にはお給料は貰えたの?

叔父

 昔は国家公務員待遇で、それなりの給料が支給された。ボーナスや年末調整も貰えた。だから貧乏な学生でも、司法試験に合格すれば法律家になれたんだ。

 叔父さんも子供の頃にお父さんが亡くなったと聞いたけど、だから叔父さんも法律家になれたんだね。

叔父

 その点については、今でもありがたいと思ってる。受験生時代は大変だったけど、家庭教師のバイトをしながら頑張ったよ。その意味では、試験に合格して修習生になったときはほっとしたね。

 じゃあ私も司法修習生になったらお給料は貰えるのかしら。

叔父

 残念だが、それは無くなるらしい。一定の手当が貸与されると聞いているが、貸与だから、法律家になってから返すことになるようだね。

 我が家もそんなにお金はないから、大学や法科大学院のときにしっかりバイトしてお金をためとかなきゃいけないわ。

叔父

 大学の法学部の頃はともかく、法科大学院ではそれは無理だと思う。バイトしながら片手間に勉強するような程度ではついていけないはずだ。色々な法律知識はもとより、依頼者との接し方など、昔は修習時代に学んだようなことまで法科大学院で勉強することになるのだから。

 そうすると、法科大学院の2年間と修習生の1年間、最低でも3年間も親に助けてもらわなきゃいけないの?

叔父

 残念だけど、これからはそうなると思う。法科大学院の学生を対象にした奨学金制度も検討されているとは聞くが、生活費をまかなえるような奨学金まではまず無理だろうね。

 奨学金にしてもいずれは返さなきゃいけないのでしょうね。

叔父

 アメリカでは、ロースクールに入ってから弁護士になるまでの期間、安い金利で借金できる制度があるらしいが、その借金額が1000万円になる例があると聞く。日本でも、法科大学院の3年間と修習生のとき貸与された分を合わせると、法律家になった時点での借金が1000万円になると試算する人もいるようだね。

 お金持ちだけが法律家になることができて、貧乏な家の子供はなれないなんて、絶対におかしいよ!

叔父

 そうだね。そもそも修習生に給料を支給するという制度の背景には、裁判官・検察官だけでなく弁護士についても、司法という制度を担う公的使命がある、という思想があったと思う。だから、弁護士になる者であっても全ての人材を国家が養成するという制度になっていたんだよ。

 そういえば、叔父さんも特許事件などで忙しいはずなのに、国選弁護で殺人事件を引き受けたりしてるよね。

叔父

 国選弁護の報酬が安いという問題は別として、国民の税金で養成してもらった以上は、報酬が幾らであれ、弁護士として引き受けるのは当然の義務だという気持ちはあるね。

 これからは、自分のお金で弁護士になるのだから、感覚が変わっていくのじゃないのかしら。

叔父

 最近は、弁護士はビジネスだという考えが強くなってきたが、それと修習生の給与が貸与制に変わったことが無関係だとは思えないね。ただそうなれば、君の言うとおり、法律家の感覚が変わっていく可能性は否定できないと思う。

 それが正しい方向なのか疑問を感じるけど。

叔父

 同感だね。そういうこともあって、弁護士会では修習生の給費制を残そうと頑張っているし、名古屋弁護士会の有志が中心となって、法科大学院の学生向けの奨学金制度を作ったりもしている。だから、取りあえず君は一生懸命勉強したら良いと思うよ。本当に君にそれだけの覚悟があるんだったら、お父さんにも僕から話してあげるから。

 ありがとう、叔父さん。頼りにしてるからね。