住友信託銀行とUFJ銀行との仮処分事件が、高裁でひっくり返った。新聞によると高裁の決定理由は、仮処分を申し立てるなど両社の関係は極度に悪化している、そんな状況では信託銀行売却交渉の前提となる信頼関係が無くなっているから、交渉禁止の前提条件が無くなった、というもののようである。しかしどうも釈然としない。別の報道によれば、他社との交渉禁止条項はUFJ側が要求して取り入れられた条項だともきく。この決定をきいて、離婚事件の判例を思い出した。
結婚は夫婦の信頼関係が前提となる。だから、婚約が相手の心変わりで一方的に破棄されても、婚姻届の提出を強制することは許されず、慰謝料等の損害賠償請求しか認められていない。しかし、こと離婚については判例の立場は違う。夫婦関係が破綻していたとしても、自ら不貞行為を働くなど婚姻破綻の原因を作った者からの離婚請求については、原則として裁判所は認めていない。一旦夫婦になり貞操を守る義務があるにもかかわらず、自分で浮気をして夫婦の信頼関係を破壊しておきながら、それを理由に相手の意思に反して離婚請求をする、そんな身勝手な輩は法律の保護に値しない、という理屈である。糟糠の妻の立場を慮ったものと言えるだろう。
他社との交渉禁止条項はUFJ側が要求したものだとする報道が正しいとすれば、今回の事件は正に、UFJ側が希望して入れた交渉禁止条項を自ら反故にしたということになる。先ほどの自分で浮気をしておきながら、それで婚姻関係が破綻したから離婚させてくれと主張する我が儘亭主と同じではないかという気がするのである。
また報道によれば、仮処分申請等の紛争になっていることが信頼関係が無くなった理由とされているようだが、それが本当だとすれば、この点にも疑問を感じる。裁判を受けることは国民の権利であり、裁判を申し立てたことを理由として訴訟で負かされることになれば、裁判に対する萎縮効果が働くからである。
高裁の決定直前に、地裁の決定を前提とするとUFJ側は今年中の交渉ができないこととなり、9月の決算において重大な危機に陥る可能性があると報道されていた。今回の高裁決定も、巨大メガバンクの破綻という事態に対する配慮があったのではないかという声も聞く。信じたくはないが、もしそうだとすれば、これは企業規模の大小により結論が変わるということであり、法律の世界では許されないことである。当事者が誰であれ平等に適用されることが法律の原則だからである。(先日最高裁は、交渉禁止条項の有効性は認めたものの、保全の必要性は無くなったとして高裁決定を維持した。住友信託は理屈では勝ったが、勝負には負けたようである)(MG)