下請契約と代金回収


     改正法で対象業務拡大
        訴訟上の効力には影響弱い
           違反イコール勝訴というわけには…



社長

 親会社がプログラム作成代金を払ってくれないんだが、どうやって回収したらいい。

弁護士

 うーん、下請法の適用があるかな。

社長

 なんだい、その下請法っていうのは。

弁護士

 正しくは「下請代金支払遅延等防止法」といいましてね、親事業者の下請事業者に対する取引を公正にするとともに、下請事業者の利益を保護することを目的とした法律なんですよ。

社長

 さっき言ってた適用があるとかっていうのはどういうこと。

弁護士

 貴社の場合に下請法の適用が認められるのは、(1)親事業者が資本金または出資総額が3億円を超える法人で、下請事業者が個人または資本金若しくは出資総額が3億円以下の法人である場合、(2)親事業者が資本金または出資総額が1千万円を超え3億円以下である法人で、下請事業者が個人または資本金若しくは出資総額が1千万円以下の法人である場合です。

製造委託、修理委託、プログラム作成委託、運送、物品の倉庫保管委託等の場合

 親事業者 下請事業者

資本金3億円超


資本金3億円以下
または個人

資本金1000万円超
3億円以下


資本金1000万円以下
または個人

社長

 我々の業界では、あまりその法律が話題になっていなかったのですが…。

弁護士

 もともと、下請法は、製造委託・修理委託の場合に適用があるものでしたが、今年の改正で、貴社のようにプログラムを作成する場合も適用されることになったんです。

社長

 それなら我が社も下請法で保護される可能性があるってことだね。

弁護士

 はい。先程申し上げた資本金の条件をクリアしているかを確認するために、御社と親会社の商業登記簿謄本を取り寄せてみる必要はありますけど。

社長

 その改正で、どのような業種が保護されることになったのかな。

弁護士

 そうですね。貴社の場合のプログラム作成のような「情報成果物の作成」の委託のほか、「役務提供」の委託についても適用が認められるようになりました。例えば、運送会社が運送の一部の経路を他の運送業者に委託する場合、広告会社が委託を受けた広告のデザインをデザイン会社に委託する場合、自動車ディーラーが依頼を受けた自動車整備の一部を他の自動車整備業者に委託する場合などがこれに当たります。ただ、情報成果物の作成のなかでも、プログラム作成委託以外のものや、役務提供委託のなかでも、運送、物品の倉庫における保管等以外のものについては、適用される事業者の範囲が違ってきますので、注意して下さい。

社長

 なるほどね。それで下請法の適用があると、どうなるの。

弁護士

 まず、親事業者は(1)支払期日を定める義務(2)書面の交付義務(3)遅延利息の支払義務(4)書類の作成・保存義務があります。(1)の支払期日は仕事の完了日から60日以内に代金を支払うよう定める義務です。(2)の書面には、仕事を発注する都度、委託日、仕事の内容、納期、下請代金額、代金支払期日、手形を利用する場合には手形の満期等を記載した書面を交付しなければなりません。(3)の遅延利息は、定められた支払日に支払わなかった場合には年14.6%の遅延利息を付けて支払う義務です。(4)の書類の作成・保存義務は、代金支払から2年間、注文書や検収・返品関係書類、代金支払関係書類を保存する義務です。

社長

 うーん。そうすると、今回の場合には書類ももらってないし、電話で決めた支払日にも払ってくれてないから、けっこう問題があるな。

弁護士

 そうですね。そして、この4つの義務の他に、親事業者に対して11の禁止されている行為があります。(1)受領拒否の禁止(2)下請代金の支払遅延の禁止(3)下請代金の減額の禁止(4)返品の禁止(5)買いたたきの禁止(6)購入強制の禁止(7)報復措置の禁止(8)下請事業者が購入した原材料等の対価の早期決済の禁止(9)割引困難な手形交付の禁止(10)不当な経済上の利益の提供の要請の禁止(11)不当な給付内容の変更および不当なやり直しの禁止です。

社長

 そうか、報復措置の禁止もあるのか。でも、結局、裁判にしないと払ってもらえないんじゃないの。

弁護士

 最終的にはそうですが、公正取引委員会が是正勧告をしたり、勧告に従わない親事業者を公表したりすることもできますので、社会的な制裁という意味で、支払を心理的に強制していることにはなるんじゃないでしょうか。

社長

 じゃあ、裁判をしてもウチの勝ちだね。

弁護士

 そこが難しいところでして、下請法はあくまで行政の取締の問題に過ぎず、司法である裁判では、下請法違反だから直ちに当事者間の合意の効力が否定されるものではないという考え方が主流なんです。今回は全く支払われていないので、請求すれば当然勝てる話だとは思いますが、下請法違反イコール勝訴という話ではないことにご注意下さい。

社長

 うーん、難しいな。

弁護士

 詳しい資料をお持ちいただければ、また検討します。