『離婚』別れ際の基礎知識(その1)


『離婚』別れ際の基礎知識(その1)


(新婚旅行から帰ってきたばかりのA子が叔父の弁護士事務所を訪れた)

A子

叔父さん、こんにちは。

叔父

やあ、A子ちゃん、お帰りなさい。どうだったい、ハネムーンは?

A子

すっごく楽しかったわ。海はきれいだったし、食べ物はおいしかったし、彼はやさしいし。でもね、ツアーで一緒だったカップルの中には、出発の空港から大げんかをはじめちゃったりしてる人たちもいて。これから先、大丈夫かしらって思っちゃった。

叔父

そういえば、ひと頃「成田離婚」なんて言葉がはやったことがあったなあ。

A子


最近も、離婚するカップルがすごく増えているんですってね、この間、テレビで言ってたわ。

叔父

そうなんだ。1年間におよそ30万件だそうだ。

A子

私たち夫婦がその30万組の中に入らないで済むのかどうか、自信がなくなっちゃうわ。
叔父



まあ、離婚の事情は人それぞれだし、形だけ、戸籍だけの夫婦関係を続けることの方が余程不幸な人生だという考え方もあり得るわけだから、離婚自体を一概に否定的に捉えることもないと思うがね。

A子

そうよね、ま、その時はその時だ。慰謝料をがっぽりふんだくってやるわ。

叔父

おいおい、離婚すれば必ず慰謝料がもらえるってものじゃないぞ。

A子

あらそうなの。つまんないなあ。

叔父

つまらないはないだろう。まあ、新婚のA子ちゃんには余計な知識かも知れないが、せっかくの機会だ、離婚にまつわる法律のことを一通り説明してみようか。

A子

待ってました。叔父さんの法律講座のはじまり、はじまり。

叔父

まず、夫婦の両方が「別れよう」「別れましょう」って訳で、離婚に合意すれば離婚できることは知っているね。

A子

協議離婚ってやつね。

叔父



そうだ。夫婦双方が離婚届の用紙に判をついて役所に出せば離婚できる(他に証人2人の署名押印も必要)。じゃあ、その離婚届にはどういうことを書くのか知っているかい。

A子

うーん。あ、そうだ。子どもをどっちが引き取るのか、これは決めておかなくっちゃね。

叔父

正解。

A子

あとは、慰謝料だとか、養育費だとか、お金のこともきちんと決めて、離婚届に書いておくのかしら。

叔父

それは違うな。離婚届の用紙にはお金のことを書く欄は1か所もないんだ。だから、お金のことが何も決まっていなくても、離婚することそれ自体と、未成年の子どもがいる場合の親権者と、あとは、結婚した時に名字が変わった方の新しい戸籍をどうするかということが決まっていれば、離婚届は完成するし、役所に届を出せば離婚が成立する。

A子

じゃあ、お金のことはどうやって決めておけばいいのかしら。

叔父

まず、その前に、離婚をめぐる「お金のこと」には何があるのか、確認しておこうか。さっきA子ちゃんが言っていた慰謝料と養育費、ほかに、財産分与というのもある。

A子

いろいろあるのね。

叔父

まず、財産分与だが、これは、本来的には、結婚している間に共同して築いた財産を別れるに際して分けるという意味合いのものだ。

A子

私がOL時代に蓄えた貯金もダンナに分けてやらなきゃいけないの。

叔父

それは婚姻前財産と言って、結婚している間に築かれた財産ではないから、財産分与の対象にはならないよ。

A子

ああよかった。

叔父

次に、慰謝料だが、これは、離婚の原因を作ったことについて悪い方が、悪くない方に対して支払うものだ。言ってみれば、悪くない方の気持ちを慰めるための弁償金だ。

A子

浮気した方が浮気された方に払う訳ね。

叔父

そう、そういう場合が典型的かも知れない。だから、どっちも悪くない離婚であれば、慰謝料の問題は発生しないことになる。

A子

そうかあ。

叔父

あとは、養育費。離婚によって夫婦の縁は切れても、夫婦のそれぞれと、その間の子どもとの間の親子の縁は一生切れない。

A子

親権者にならなくても。

叔父

そうだ。子どもを引き取らなかった方も子どもの養育について分担する責任を負うんだ。だから、子どもを引き取った方に養育費を支払うことになる。

A子

なるほど。

叔父

そして、さっき話したとおり、離婚する時にお金のことを決めておくことは必須ではない。離婚した後でも、請求できる場合には、請求できる。

A子

いつまででも請求できるの。

叔父

いや、財産分与は離婚から2年以内、慰謝料は3年以内だ。

A子

養育費は。

叔父

養育費は、子どもの成長に合わせて、その都度必要になるものだから、離婚から何年以内に決めておかなければならないということはない。また、1回決めても、事情が変われば金額などを変えることもできる。

A子

養育費は、せっかく決めておいても払わない人が多いって、新聞に書いてあったわ。

叔父

そうなんだ。だから、せっかく決めたのならば、きちんとした書類にしておいた方がいい。財産分与や慰謝料も、将来の分割払いにするならば同じことだね。

A子

きちんとした書類って。

叔父

裁判所の調停調書や審判書、公証人に作ってもらう執行証書になっていれば、もし支払ってもらえない場合、相手の財産を差し押さえることができる。それから、詳しいことは後で話すけれど、今年、養育費などの支払いを確保しやすくするために、法律が改正されたんだよ。

A子

決めたことは守って欲しいわよね。

叔父

ところで、夫婦の片方は別れたいが、もう片方は別れたくない。そんなとき、別れたい方が勝手に離婚届を作って役所に出してしまうことがある。

A子

随分と乱暴な話ねえ。

叔父

そう。もちろん、そんなことは違法なんだが、役所の窓口でのチェックには限界があるし、そんな離婚届が一旦受理されてしまって戸籍が書き換えられてしまうと、それを元に戻すのは結構面倒だ。

A子

阻止する方法はないのかしら。

叔父

そんなときは、別れたくない方は、役所に、「私は別れるつもりはありませんので、相手から離婚届が出されても受理しないで下さい」と申し出ておくといい。そうすれば、勝手な離婚届は受け付けられない。

A子

ああよかった。

叔父

さて、片方は別れたい、もう片方は別れたくない。これでは協議離婚は成立しない。じゃあ、どうするか。

A子

裁判所へ行くわけね。

叔父

そうだ。まずは、家庭裁判所での離婚調停ということになる。

A子

おもしろくなってきたわ。

叔父

おいおい。

(次回につづく)