婚約破棄




 〔私の悩み〕

 私は,入社6年目の28歳の会社員。彼女は,昨年,新卒で入社してきた24歳のOL。昨年の6月ころから付き合うようになりました。私も,彼女とならうまくいくのではないかと思い,今年の春に,プロポーズをし,彼女も了解してくれました。そこで,5月には,私の両親に彼女を紹介し,その後,彼女の両親にも会いました。お互いの両親から反対されることもなく,彼女の両親からは,結納はいつにするかとも聞かれましたが,彼女とも相談して,特に,結納をする必要はないのではないかと話をしていました。ただ,婚約指輪というほどではありませんが,結婚が決まった後に,彼女に指輪はプレゼントしました。
 このように,私たちは,順調に交際をしてきており,来年春には,結婚式を挙げようという話をしており,結婚式場をどこにしようかとの話も出ておりました。ところが,今年の夏に,高校の同窓会に行ったところ,昔,付き合っていた彼女がきており,話をしているうちに,2人で会う約束をしてしまいました。悪いと思いながら,その後,何回か会うようになり,24歳の彼女と結婚する気持ちが揺らいできてしまいました。
 私自身,気持ちの整理がつかず,一旦,結婚を止めたいと思っていますし,24歳の彼女も,私の様子がどうもおかしいと思っているみたいです。
 道義的に悪いことは分かっておりますが,このまま,結婚しなかった場合,法律的に何か問題になるかどうか教えていただきたいと思います。
 
  〔弁護士の回答〕

 結婚を約束したのに,結局,結婚を取り止めてしまうことを,婚約破棄と言っておりますが,どのような法律上の問題があるでしょうか。
 第一には,婚約が成立していたかどうかの問題があります。結納が交わされたり,結婚式場の予約をしたりしていれば,お互いに結婚しようとする合意があったということは,はっきりしますが,婚約が認められるためには,必ずしも,特別な行為が必要とはされておりません。ただ,どんな場面でなされた合意でもすべて婚約と認められるわけではなく,最終的には,不当に破棄されたときに,保護されるべき権利(期待権)があるかどうかで考えることになるといえます。そして,今回のような場合,お互いの親にも会い,指輪も渡しており,結婚式場の話も出てきているのであれば,結婚する合意は認めてよいと思われます。
 次に婚約が破棄された場合にどのような問題があるかです。いわゆる結納が交わされたが,結婚までに至らなかったような場合には,結納金の返還義務が生ずると考えられております。ただ,婚約破棄の原因が,贈った側にのみあるような場合にまで,返還を認めるのは相当でありませんので,返還が認められないケースもあります。今回の場合,結納金の授受はありませんが,結婚を前提に指輪を渡しております。そのため,あなたが要求すれば,彼女としては,指輪を返すのが原則といえますが,状況によっては,認められない場合もあります。
 そして,婚約破棄で一番問題になるのは,婚約破棄に正当な理由があるかどうかです。もし,正当な理由もなく,婚約を破棄するとなると,結婚するという約束を破ったということになり,債務不履行にあたるとして,賠償金を支払うことになります。今回の場合,あなたの方から,婚約を破棄したとしたら,正当な理由がないことは明らかであるといえます。では,逆に,彼女が婚約を破棄することはできるのでしょうか。裁判所でも,婚約した当事者は,誠実に交際し,やがて婚姻を成立させるように努める義務を負うとして,この義務には,互いに貞操を維持する義務も含まれるとされております。そのため,相手方が,婚約後,第三者と情交関係にあったような場合には,婚約を解消する正当事由があるとされております。そして,お互いを拘束する力としては,結婚したり,内縁関係にあったりした場合に比べて,婚約の場合の方が緩いと考えられるため,正当事由を広く認めようとする傾向にあります。そのため,結婚を約束しておきながら,他の女性に気持ちが傾いて,結婚する気持ちが揺らいでしまっている以上,彼女の方から,婚約を破棄することには,正当な理由があるといってよいと思います。
 もし,あなたのように,自らの勝手で,婚約を破棄しようとしたり,あるいは,彼女からの婚約破棄に正当な理由があると考えられる場合(婚約破棄の原因があなたにあるといえる場合)には,前記のとおり,あなたから彼女に損害金を支払うことが問題になります。
 損害金としては,結婚準備のための費用(結婚式の通知等)を出したような場合には,実際に出費されたものとして,損害になるといえます。更に,実際に出費をしたものではありませんが,結婚に備えて仕事を辞めたような場合に,退職しなければ,給与が得られたはずであり,得られたはずの給与分が損害になるのか,損害になるとしてどの範囲まで損害といえるのかが問題となったケースもあります。また,婚約破棄により,精神的苦痛を受けたとして,慰謝料請求が問題となる場合もありますが,一般的には,婚約期間,交際の程度,婚約破棄の事情等が考慮されているといえます。ただ,離婚の慰謝料よりは,一般には低いと考えられております。
 いずれにしても,好いた惚れたのうちは,法は介入しませんが,一定の次元を超えてきますと,今回の婚約破棄のような場合のほか,内縁関係を解消するような場合など,相手方の一定の信頼を裏切るような行為が認められるような場合には,損害賠償の問題になりかねません。一時の感情だけで,結婚を決めたり,結婚を止めたりするようなことをしていると,予想外の問題が生じることもありますので,ご注意ください。