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社長 |
今日はうちの会社の株主のことで相談に来たんですが。
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弁護士 |
おや、株主さんから代表訴訟でも起こされましたか(笑)
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社長 |
いや、うちの会社は親父が設立してもう40年になります。当時は会社を設立するときは7人以上必要とかで、親父が知り合いに頼んで少しずつ出資してもらって設立したようなんです。
ところが、出資してくれた株主さんは既に亡くなられたのか、連絡がとれなくなってしまったんです。
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弁護士 |
でも、3分の2以上の株式は社長一族でお持ちだから、会社の経営には影響ないですよね。それに、会社としては、株主に対して通知や催告(株主総会招集通知や配当の通知など)をする場合、株主名簿に記載された住所または株主が連絡先として会社に通知した場所に宛てて発送すれば足りることになっていますよ。
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社長 |
それはそうなんですが、私もそろそろ引退しようかと思っていて、次の代に引き継ぐにあたり、株主がわからないような状態のままで渡すのは気が引けましてね。
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弁護士 |
なるほど。では、先の商法改正で認められた株式売却制度を利用しては如何ですか。
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社長 |
何ですか、それは。
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弁護士 |
これまでも、(1)
会社が株主名簿に記載された住所等に宛てて発送した通知が5年続けて株主に届かなかった場合には、会社は当該株主へ連絡しなくてもよいことになっていました。
ただ、それだけでは今回のようなケースに対応できないために、さらに、(2)
5年続けて、その株主が配当を受領していない場合には、一定の手続を経ることで、株式を売却できるようになったんです。
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社長 |
えっ、勝手に他人様の株式を売ってしまっていいってことですか。
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弁護士 |
そうです。ただ、社長も言われるように他人の財産である株式を勝手に会社が処分してしまう訳ですから、上記(1)、(2)の条件を満たすことが絶対条件です。
たとえば、社長のところでは毎年配当をしていますよね。
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社長 |
まぁ、少しだけどね。
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弁護士 |
上記(2)に関して、5年続けて配当を受領しないことが条件ですから、5年間のうち1年でも配当できなかった年があると、5年続けて配当を受け取っていないのでないかという問題が発生します。
まだ裁判例は出ておりませんが、立法段階における説明では、5年間無配当でも受け取っていないことは間違いないので条件を満たすと言われています。
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社長 |
なるほど。それで、この2つの条件を満たしたら、どうすればいいんですか。
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弁護士 |
2つの条件を満たした株主が所有する株式については、まず、株主の氏名や住所、株式の種類や数、株券を発行している場合には株券番号、売却に異議があれば3ヶ月以上の一定期間内に異議を申し出ることを公告し、かつ当該株主に対しても株主名簿に記載された住所等に宛てて通知しなければなりません。
この3ヶ月の異議申立期間内に異議を申し出る者がいなかった場合には、取締役会の決議で、その株式を競売にかけることができます。
または、競売の代わりに、相場のある株式であれば相場価格で、相場のない株式については裁判所の許可を得て任意で売却することもできます。
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社長 |
うちは上場してないから、相場のない株式ですね。そうすると、競売か、裁判所の許可をもらって任意売却することになりますね。
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弁護士 |
はい。社長の会社のようなケースでは、失礼ながら競売にかけても入札する人がいる可能性は低いですし、競売申立には相応の手間と費用を要しますので、裁判所の許可をもらって任意売却するとよいでしょう。
しかるべき理由をつけて代金額を定めた上で許可申請をしてください。
なお、競売される場合で、株券が発行されてない場合には、株券を発行した上で、株券を競売にかけることになります。
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社長 |
売ったお金はどうするんですか。
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弁護士 |
売却代金は当該株主のものですから、当然株主に支払わねばなりません。
しかし、配当金を受領しなかったことが売却の要件なので、かつて配当金を振り込んでいた銀行口座に振り込んでも、現金書留で代金を郵送しても、株主が受領しないことは明らかです。そうすると、株式を買い受けた会社または会社代表者は半永久的に代金を管理しなければならないことになってしまいます。
それでは不合理なので、債権者(株主)の所在が不明であることを理由に、売却代金を法務局で供託してしまうことをお勧めします。
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