皆さんは、株式会社や有限会社を資本金1円で設立できることをご存じですか。そういうと、そんなはずはない、最低でも、有限会社で300万円以上、株式会社だと1000万円以上の資本金を用意しないと設立できないことになっているはずだと思われるかもしれません。
《最低資本金規制とは》
確かに、商法や有限会社法によって、株式会社では1000万円、有限会社では300万円の資本金が必要とされています。法がこのような最低資本金規制を設けているのは、もちろん理由があります。
株式会社や有限会社が倒産した場合でも、社員(この「社員」というのは、日常使われているような従業員という意味ではなく、会社に対する出資者のことを言い、株式会社の場合は「株主」と呼びます。)は会社が負担していた債務を弁済する義務を負わないため(有限責任)、会社に対して融資をした金融機関や売掛債権を持っていた者(会社債権者)が、会社が倒産した場合のリスクを負担することになります。最低資本金規制は、会社を設立する時点で最低資本金以上の財産を保有させることにより、このような会社債権者のリスクを軽減することを目的としているわけです。 ところが、昨今の大型倒産事件から明らかなように、資本金の額が大きいからといって倒産しないと言うわけではありません。また、会社設立の時点で会社の保有する財産が多額であったとしても、その後の会社経営に失敗した場合には、倒産することになります。
《ベンチャー企業の育成》
他方で、これから会社を設立して起業しようとする者のうち、必ずしも資金力・信用力が十分ではないサラリーマン・主婦・学生等にとっては、最低資本金規制は起業に向けての高いハードルとなっていました。そこで、やる気と能力のある中小・ベンチャー企業等の育成・発展を進め、我が国の経済活性化と雇用拡大を実現するため、平成14年秋の臨時国会において成立した中小企業挑戦支援法により、新事業創出促進法の一部を改正し、同法第2条第2項第3号の「創業者」であることについて経済産業大臣の確認を受けた者が株式会社・有限会社を設立する場合には、最低資本金規制を設立後5年間は適用除外とする特例を設けました。
その結果、確認を受けた創業者が設立する株式会社・有限会社の資本金は1円でもよいことになったわけです。この特例は平成20年3月31日までの時限措置です。
以下、最低資本金規制の特例のポイントを説明します。
【創業者】
この特例の適用を受け得る主体は、同法第2条第2項第3号の「創業者」であることについて経済産業大臣の確認を受けた者でなければなりません。この「創業者」とは、事業を営んでいない個人であって、2ヶ月以内に新たに会社を設立してその会社を通じて事業を開始する具体的な計画を有する者を言います。個人事業主、法人の代表権のある役員は、事業を営んでいない個人から除外されます。
なお、この特例によって設立された会社は「確認有限会社」「確認株式会社」と言います。ただし、名刺やパンフレットに「確認」と入れる必要はありません。
【5年以内に最低資本金額まで増加】
この特例は、会社設立の日から5年間のみの適用となります。したがって、設立後5年以内に有限会社で300万円、株式会社で1000万円まで資本金を増やす必要があります。
もし、5年以内に最低資本金まで増やすことができなかった場合、合名会社、合資会社(有限会社)に組織変更するか、解散するしかありません。
【配当の制限】
配当はできます。ただし、通常であれば、営業年度末の純資産額から「資本の額」や資本準備金等を控除して配当可能利益を算出するところ、「資本の額」(例えば1円)に代えて最低資本金額(300万円もしくは1000万円)を控除することとしています。これも、最低資本金規制を5年間免除することの代償措置として、会社債権者の保護のために認められたのです。
【計算書類の提出】
毎営業年度終了後3ヶ月以内に、経済産業局に「貸借対照表」「損益計算書」「利益処分案」を提出することが必要です。提出された貸借対照表は、経済産業局において公衆の縦覧に供されます。
最後に、今年の2月1日から4月11日までに、経済産業局に提出された創業者の確認申請数は、全国で、株式会社663件、有限会社844件の合計1507件、その内で、実際に確認を受けて設立登記をし経済産業局に成立の届け出まで出されたのは、株式会社256件、有限会社346件の合計602件です。確認申請した内の約4割が実際に設立されたわけです。因みに、文字通り資本金「1円」の会社は、確認申請段階で、1507件中36件、成立届け出のあった会社602件中17件です。本当に1円で設立された会社が17件もあったわけです。
さて、説明のとおり、この制度では、最低資本金規制の負担を免れる代わりに、5年以内の最低資本金達成、経済産業局による創業者であることの確認手続き、配当制限、計算書類の提出義務等の負担を負うことになるので、いいことばかりではありません。
しかし、これまで起業のための十分な資本がなかったサラリーマンや主婦、学生などでも、無形財産やアイデアというソフトな経営資源を持ち、そして、何よりも誰にも負けないやる気と自信があれば、起業に向けての途が開かれたのです。この制度によって生まれたベンチャー企業が数年後、数十年後には、日本、もしかしたら、世界を代表する優良企業に成長しているかもしれません。長引く不況によって名門・大会社の倒産が続出する暗い世相の中で、国民に夢を与えてくれる制度ではないでしょうか。読者の皆さんもチャレンジしてはどうですか。