司法予算の大幅な増額を


1 司法予算

 この8月は来年度予算の概算要求の時期です。平成13年度の国家予算は約82兆5500億円でした。
 さて、このうち裁判所関係の予算(司法予算)はいくらかご存知でしょうか。
 約3200億円です。国家予算82兆5500億円のうちなんと0・378%に過ぎないのです。

 

 この表は、昭和25年から平成13年までの国家予算総額の推移と、司法予算の国家予算に占める割合を示したものです。国家予算の総額が右肩上がりで増えているのに対して、司法予算の占める割合は下がる一方であることが分かります。昭和25年以降現在に至るまで、司法予算は国家予算の1%を超えたことが一度もありません。

 司法予算の主な使途は、裁判所の維持運営費です。裁判官、裁判所職員などの給料の人件費、物品購入代の物件費及びその他に分類できます。3200億円のうち約8割が給料などの人件費です。

 この他、裁判所庁舎の建て替え費用もこの32百億円の中に含まれていますが、毎年どれだけの額が支出されるのかは我々にはわかっていません。


2 増加する訴訟数

 

 この表は昭和40年から平成11年までの期間について、その年度に新たに提起された民事事件(新受事件)の増加の割合と、同じ期間についての裁判官の増員の割合をグラフにしたものです。昭和40年の数を「1.0」として、その後の増減の推移を表しています。民事の訴訟事件は、昭和40年と比べると、平成11年には2倍近くに増えていますが、裁判官の数は2割弱しか増えていないのです。

 ちなみに刑事事件については、起訴された被告人の数は、昭和39年が7万3000人、平成11年が8万5000人とさほど増加していません。しかし、バブル経済が崩壊し不況が長引く中、刑事事件はこのところ増加の一途をたどっており、平成12年には9万4000人で、ここ数年この増加は続く見込みです。最近の新聞報道によれば、今年上半期の刑法犯は約135万件で、史上最悪の約270万件を記録した昨年の上半期よりも4・9%増というさらに悪いペースで増えているとのことです。

3 司法の容量は小さいまま

 裁判官の定員は裁判所法により定められています。上の表では増減の割合を示しましたが、具体的な裁判官の数は、昭和39年当時、定員が1737人、現実の数が1696人です。これが平成11年時点では定員が2120人、現在員が2090人です。約1.2倍です。

 また、裁判所職員(書記官や事務官という人たち)については、昭和39年当時、定員が2万808人です(現実の職員数は不明)。これが平成11年時点では定員が2万2022人、現実の職員数が2万1835人で、約1・06倍の増加です。

 昭和40年と平成11年を比較すると、民事事件数は約2倍に増加しているのに、裁判官数は1・2倍、裁判所職員は1・06倍しか増員されていないのです。

 裁判所の庁舎(法廷、裁判官、書記官の執務室等)についても、簡易裁判所の統廃合により数は減少したものの、人口増加地域に新たに裁判所支部が設けられたことはほとんどありません。

 訴訟事件が増加し、司法のニーズが増えているのに、裁判所の人的・物的陣容は昭和40年頃からあまり拡充されていないのです。

 事件数が倍以上になったのに裁判官数は1・2倍程度の増加では、個々の裁判官の負担が増え、事件が処理しきれないということが数字の上からも理解していただけると思います。

4 二重予算制度

 裁判所の予算については、司法の独立を守るため、裁判所法、財政法で、特別の考慮が払われています。

 内閣は、国会、裁判所及び会計検査院の歳出見積を減額査定して予算を編成した場合、右国の各機関が要求した歳出見積についてその詳細を歳入歳出予算に附記しなければならず、また、国会が右国の各機関が要求した歳出額を復活修正する場合に必要な財源についても明記しなければならなりません(財政法19条)。

 これを「二重予算」の制度といいます。裁判所の歳出見積が内閣によって一方的に減額されることのないように、仮に内閣により減額査定されても国会において裁判所の要求を復活修正し易いように、との趣旨です。

 最高裁は、発足以来、昭和25年度(裁判官の報酬)、27年度(営繕費)、35年度(裁判官の報酬)の3回、この権限を行使しようとしたことがありました。しかし、いずれも事前に内閣とで話合いがつき、実際に行使された例はないようです。

5 司法予算の拡充を

 司法の容量が小さすぎることが日本の司法の最大の問題なのです。国民の裁判を受ける権利は憲法上保障されていますが、肝心の裁判所の容量が小さく、国民の司法ニーズに応えられないのでは、裁判を受ける権利が国民に本当に保障されているとはいえません。

 100年に1度の司法の大改革が推進されている今、司法の容量を大きくして、法の支配を確立する絶好の機会なのです。

 司法予算については、財政法で特別に二重予算制度が認められているのですから、最高裁はこの権限を有効適切に行使して、司法予算の増額に力を注ぐべきです。