ジェンダー問題


五月のある日、小学校四年生の奈都子ちゃんが
弁護士のお父さんと話をしています。



奈:ねぇ、お父さん、五月五日は「こどもの日」だよね。

父:そうだよ。これはね、国民の祝日に関する法律という法律で決められた祝日なんだよ。

奈:でもね、お祝いされるのは男の子ばかりで、あたしたち女の子はお祝いしてもらえないんだよね。こどもの日なのにサ。

父:う〜ん、でも奈都子たちにはひなまつりという女の子だけのお祝いの日があるじゃないか。

奈:でもね、ひなまつりは学校がお休みじゃないもん。何で、男の子のお祝いの日だけ学校がお休みなの?

父:歴史的には五月五日に「しょうぶ」という草の葉のお風呂に入ると健康になれるという言い伝えがあってね、この「しょうぶ」という発音が「勝負」と同じであることから、江戸時代に戦(いくさ)をする男性が健康に育つことを願ってお祝いする日になったという経緯があるんだ。

奈:ふ〜ん。でも、「こどもの日」なら、男の子も女の子も子どもなんだから、同じようにお祝いしてもいいんじゃないの?そんなの男女差別だよ。

父:男女差別か、難しい言葉を知ってるな。よし、じゃあ、今日はジェンダーについて話をしよう。

奈:ジェンダーって何。

父:まぁ、社会における男女の地位というか役割のことだね。ただ、今は「ジェンダー問題」というと、女性差別問題を指す言葉として使われることもあるね。

奈:女の人は差別されてるの?

父:そういう面があることは否定できないね。例えば、結婚したら女の人が名字を変えることが圧倒的に多いんだよね。男女平等であるなら、女の人だけに名字の変更を押しつけるような風習は差別なんだろうね。会社でも、女性従業員にだけ掃除やお茶くみをさせている会社が少なくない。これもやはり差別なんだろうね。

奈:あたしが大人になるまでそんな状態だったら嫌だなぁ。

父:それでも、少しずつではあるけれど、男女の差別をなくそうという動きはあるんだよ。例えば、学校のクラス名簿だって、これまでは、男の子と女の子を別々にして名簿を作っていたんだけど、最近は、男の子も女の子も関係なく五〇音順にしている学校もあるしね。

授業科目だって、昔は男子は「技術科」女子は「家庭科」と分かれていたけど、今は選択できるようになって、女の子が技術を勉強することもできるようになったんだよ。

会社へ就職するときだって、昔は「男性従業員募集」という内容の求人広告ができたけど、今は男女を区別して募集することは禁止されているんだ。

「こどもの日」だって、子どもの幸せを願う日だから、女の子がお祝いしちゃいけないってことはないんだよ。だから、ちまきや柏餅を買ってきて食べてるだろう。

奈:でも、結婚したら名前が変わるのは嫌だなぁ。

父:これも「夫婦別姓」と言ってね、結婚しても名字を変えなくていいようにしようという動きはあるんだ。まだ、法律はできていないけどね。奈都子が大人になる頃には変わっているかもしれないよ。

奈:お母さんは結婚する前からお仕事してないの?

父:お母さんもお父さんと結婚する前は仕事をしていたよ。結婚するときに辞めてしまったけどね。

奈:あたしは結婚してもずっとお仕事続けたいと思う。

父:家の中のことは女性の仕事みたいな意識が日本では強くてね。「仕事と家庭の両立」って言葉は女性に対してだけ使われて、男性に対しては言われないよね。だから、仕事で疲れて帰ってきた後に、食事の準備をするのは大変だよ。

奈:何で男の人は食事の準備をしてくれないの?早く家に帰って来た方が準備すればいいじゃない。

父:それはそうだが、さっきも言ったようにお父さんの時代は家庭科を習ってないんで、お母さんみたいに上手く料理ができないんだよ。

奈:女の子だって女の子というだけで料理ができるんじゃなくて、料理を勉強するんだから、これからは男の子にも料理を勉強してもらわないとね。

父:そうだね。じゃあ、これから一緒にお母さんに料理を教えてもらおうか。

奈:うん。

(料理をしながら)

奈:お父さん、女の子だと損するのかなぁ。

父:男女平等は憲法にも決められている大切なことなんだけど、現実には女性に対する差別が今も存在することは否定できないね。

奈:何で憲法に決められているのに、男女平等じゃないの?

父:そのあたりが難しいところでね。理想と現実のズレと言ってしまえばそれまでなんだが・・・。

でも、少しずつだけど、女性を男性と平等に扱おうという雰囲気は強くなっていると思うよ。お父さんのいる弁護士、裁判官、検察官の世界では、かなり改善されてきているし、会社でも女性の取締役が登場してきてるしね。

奈:お母さんが言ってたけど、アナウンサーだって、男のアナウンサーは単なる「アナウンサー」なのに、女のアナウンサーは「女子アナ」って言われるんだって。これも何か変だよね。

父:そうだね。アナウンサーの仕事なら、男性・女性ということは関係ないからね。

男性の仕事だと思われていた分野にどんどん女性が進出するようになってきたし、スポーツの世界でも、柔道やマラソンなど昔は男性だけの種目だったものが、女性の種目として認められるようになってきてるしね。

奈:あたしが大人になる頃には、男だから、女だから、っていう問題がないようになっているといいなぁ。

父:そうなるように、男の子も女の子も同じ人間として対等の目で見るようにしないといけないね。