民事再生と会社更生

(中部経済新聞平成14年4月「こちら弁護士会」掲載)

 平成13年、株式会社マイカルが経営破綻した際、その再建方法を巡って経営陣が対立しました。会社更生の申立てを決めていた当時の社長に他の役員らが異議を唱え、社長を解任したうえで民事再生を申し立てたのです。
 今回は、この民事再生と会社更生の概要及びその違いについて確認しておきたいと思います。
 

●民事再生について

 まず、「民事再生」とは何ですか。

 民事再生とは、平成12年4月よりスタートした「再建型」の倒産制度です。
 従来、和議という類似制度がありましたが、民事再生は、昨今の経済情勢をふまえ、主に経済的苦境に陥った中小企業がよりスムーズに再建できるよう制定されたものです。
 

 民事再生の対象は会社だけですか。

 すべての法人・個人が対象です。
 

 民事再生は、どのような場合に申し立てることができますか。

 民事再生の申立は、手形の不渡りや支払不能などの破産原因が現になくとも、そのおそれがあれば足りますので、再建が「手遅れ」になる前に申し立てることが可能となりました。
 

 民事再生の手続が開始すると、経営陣は退陣しなければならないのですか。

 民事再生の手続が開始されても、原則として経営陣は引き続き経営を行なうことが可能です。
 但し、経営陣はそのままでも、裁判所により監督委員が選任されることが多く、重要事項については監督委員の同意が必要となります。
 また、経営陣が経営を継続することが不適当であれば、経営権が管財人に引き継がれる場合もありますし、監督委員の同意が必要なのに経営陣が勝手に指定された行為を行ったような場合には、再生手続が打ち切られ、裁判所が職権で破産宣告することすらもあることを認識しておく必要があるでしょう。
 

 民事再生手続が開始された場合、抵当権などの担保権はどのように扱われますか。

 民事再生では、原則として担保権の行使を禁止することはできません。
 しかし、これでは、事業継続に必要な財産が散逸するおそれがあり、再建もおぼつかないものになりますから、民事再生法は、一定の場合には担保権の実行を防ぐ手立ても講じています(競売手続の中止命令、担保権消滅許可制度)。
 

 民事再生の手続を開始した後はどのような手続を経るのですか。

 概略、債権の調査手続等を経た後、原則として債務者が再生計画案を裁判所に提出します。
 そして、この再生計画案が債権者集会などで可決され(表参照)、裁判所がこれを認可すればその再生計画が確定します。
 

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●会社更生について

 民事再生の概要は分かりましたが、マイカルの事例では、社長を解任した役員らにより申し立てられた民事再生手続はその後スムーズに進まなかったとも聞きましたが。

 そのとおりです。マイカルの事例では、結局、民事再生から会社更生に手続が切替えられました。
 

 まず、この「会社更生」とは何ですか。

 会社更生は、民事再生と同じく再建型の倒産制度であり、債権者数が多く、その債権額も大きい比較的大規模な会社を想定して定められた制度です。
 

 会社更生と民事再生との違いはなんですか。

 一言でいえば、会社更生は多数の関係人の利害調整を要するため、民事再生に比べその手続が非常に複雑・厳格であるということです。
 主な具体的相違点は、会社更生の場合、
(1)対象が株式会社に限られること、
(2)会社の経営権は管財人に引き継がれ、旧経営陣は会社の経営から離脱すること、
(3)担保権は全て再建手続内に取り込まれて処理され手続外で行使することはできないこと
等があげられます。
 

 会社更生の手続は時間がかかりそうですね。

 先ほどの会社更生の特色から、現行の会社更生の場合、再建計画が裁判所により認可されるまで数年以上かかることは珍しくないようです。
 一方、民事再生は、再建計画が裁判所に認可されるまで、概ね半年程度ともいわれています。
 

 そうすると、民事再生では経営陣が経営権を維持できるし、迅速に処理が進むというメリットがあることになりますね。だとすれば、なぜマイカルは、民事再生を断念し、会社更生手続によらざるを得なかったのですか。

 それは、やはりスポンサーや債権者の理解が得られなかったということでしょう。
 というのは、民事再生による場合、経営陣がなお経営権を維持することに債権者などの不満が強い場合には債権者・スポンサーの理解が得られず、手続を遂行することは不可能となってしまうのです。
 それ以外にも、民事再生による場合、会社財産が担保権実行により散逸するおそれがあるなどの問題点もあげられます。
 結局、民事再生によるか会社更生によるかは、現在の会社の規模や財産・負債状況のほか、債権者やスポンサーの意向も注視し、冷静な判断を行なうことが必要といえるでしょう。
  

 ただ、会社更生は利用しにくい印象を持ちますが・・。

 確かに現行の会社更生法は色々問題点も指摘されているところです。そこで、より利用しやすい会社更生法を目指して、手続期間の短縮、経営責任のない経営者の残留、再建計画案の決議要件の緩和等を内容とした同法の改正が本年中の成立を目途に議論されています。債務者、債権者双方の立場からみて納得できる改正案となるよう、注目していきたいものです。
 

 






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