社長: |
先代社長の親父が死んで、親父がもっていた当社の株式を専務をしている弟と分けたんだが、どうもいろいろうるさくていけない。何か方法はないかい?
|
弁: |
どんな割合で株式保有してるんですか。
|
社長: |
私が六五パーセントで、弟が三五パーセントだな。
|
弁: |
そうすると兄弟間で経営方針が対立した場合に株主総会で特別決議ができない可能性がありますね。経営を安定させるためには三分の二の株式を保有される方が楽ですよ。
|
社長: |
それなら新株でも発行して、弟の株式持ち分を減らせばいいのか。
|
弁: |
理屈ではそうですが、きちんと株主総会を開催して手続を踏んで下さいね。
|
社長: |
これまで株主総会を開いたことなんかないよ。書類上、株主総会を開いたことにして全部済ませてきた。身内ばかりの会社だし、議事録だけ作って書類上開いたようにしておけばいいんだよ。
|
弁: |
それは違法ですよ。こんな例がありました。会社に長く勤めてくれた従業員がいて、努力が認められて取締役になりました。定年になったということで、取締役としての分の退職金を払ったのです。そうしたら、身内だと思っていた株主から退職金の支払手続が違法だから、社長が会社に退職金相当額を返せっていう株主代表訴訟を提起されそうになったんです。
|
社長: |
何で退職金を払った社長が返さないといけないの?
|
弁: |
取締役の報酬額は株主総会で決めなければなりません。退職金も報酬の後払い的性格を有するので、支払うには株主総会の決議を要すると考えられています。したがって、株主総会決議を経ないで取締役に退職金を支払うのは違法です。違法な行為をして会社に損害を与えた取締役に対して株主代表訴訟を提起することはできますよ。
|
社長: |
それで、その社長はどうなったの?
|
弁: |
株主総会を開催していない以上、取締役への退職金支給が違法であったことは間違いありません。やむなく、その社長は、退職した取締役に頭を下げて、既に使ってしまった部分は自分で穴埋めして退職金を一時的に返還してもらったようです。その後、正規の手続を踏んで株主総会で退職金の支給を決議してもらって再度支払ったと聞きました。
|
社長: |
そうかい、株主総会を開いておかないと、訴訟の場になったら全く勝ち目がなくなるのか。
|
弁: |
そうですよ。そうそう、こんな例もありました。その社長には息子がいなくて、跡継ぎとして娘婿を迎えたんです。娘婿に社長を任せて、自分は取締役会長になったんですが、娘婿を社長に就任させるときも株主総会を開かず取締役に選任したんです。ところが、数年後に、会社が取締役報酬を払わなくなったんです。娘婿に文句を言ったら、「お義父さんは取締役から降りてもらいましたので、報酬は払えません」と言われたんです。
|
社長: |
会長は取締役でなくなったことを知っていたのかい?
|
弁: |
いえいえ、株主総会で義父を取締役として選任しない、言い換えれば別の人を取締役に選任する決議をしたという株主総会議事録を勝手に作って、取締役から外してしまったのです。
|
社長: |
ひどい娘婿だなぁ。だけど、さっきの話で株主総会が開かれていないと、何か訴訟ができるんじゃないの?
|
弁: |
理論的には、株主総会不存在確認訴訟を提起できます。また、その社長の場合、株式の七割をもっていましたから、逆に娘婿を取締役から解任することも可能でした。しかし、訴訟を提起したり、娘婿を解任したりしたら、娘が困ることになります。結局、その社長は娘婿のいいなりになるしかなかったようです。
|
社長: |
うーん、簡単に考えていたが、そんな甘い話ではないようだねぇ。
|
弁: |
そうですよ。それに、株主総会を開催しないと取締役に対して一〇〇万円の過料の制裁があるんですよ。
|
社長: |
えっ、罰則もあるの?
|
弁: |
もちろん。株主総会の開催は法律で定められた事項ですからね。
|
社長: |
それならどうやって株主総会を開いたらいいか教えてよ。
|
弁: |
まず、取締役会で株主総会の議題を決定して、株主総会開催日の二週間前までに書面で株主の招集通知を発送します。この招集通知には、招集文言、開催日時、場所、会議の目的事項を記載します。会議の目的事項は報告事項と決議事項に分かれ、報告事項とは一般的には営業報告、決議事項とは、一般的には貸借対照表・損益計算書の承認、利益処分案の承認、取締役や監査役の選任などの議案のことです。
その上で、株主総会では株主からの質問にしっかり答えて、決議をしなければなりません。
|
社長: |
面倒だなぁ。頭が痛くなってきたよ。
|
弁: |
面倒でも法律で決められた事項なので、しっかり守って下さい。
株式会社は広く大衆から資金を集めて会社を興すためのものです。そのために実質的な出資者である株主に情報提供しなければなりません。それが株主総会なのです。株式会社という制度を利用している以上は、面倒でもやむを得ないことなのです。
先程お話しした二つの例でも、前のケースでは、株主総会を開いていれば、退職金を支給することには争いがなかったようなので、代表訴訟に怯えることも、元従業員に頭を下げることも、一部穴埋めすることも必要なかったでしょう。また、後のケースでは、選任時に株主総会を開かなかったから娘婿が株主総会なしで構わないと考えてしまったのです。
面倒かも知れませんが、訴訟になっても困ることのない経営をしておかれることをお勧めします。
|
|
|
|
|